第5回:アフターコロナ現場からのアプローチと消費者の変化

今回は、コロナ禍の緊急事態宣言により多くの小売飲食業は休業する事態となりましたが、解除後どの様に対応してきているかを6月22日に開催した第31回Next Retail Labオンラインフォーラムに、コロナ以前からデジタルを積極的に導入し取り組まれてきているショッピングセンターパルコを運営されている株式会社パルコ執行役員の林直孝氏をお招きしてリアルな実情と今後について伺いましたのでその様子をお伝えします。

 

新型コロナウィルスの影響

 

コロナの影響を受けて、3月上旬には時間短縮営業をはじめ下旬には都心店舗では週末休業、緊急事態宣言発出後4月上旬には都心店舗で食品・医療フロアなど一部ショップを除き平日も全館休業となりました。その後、5月中旬より一部地域の店舗で時短営業を再開し、6月1日より全国の店舗で時短営業すると共にウィルス感染拡大防止対策を講じながら進められてきました。6月の営業再開後の変化としては、人の移動が自粛継続されている中で不要不急をキーとして、好調であったのは今すぐ必要な商品、来店前の購入意思が高い指名商品、自家需要、セルフサービスなどで、一方未好調なのは感染リスクを回避したい気持ちから施設内に滞留する時間が長い映画館、スクールなどは落ち込みました。しかしながら、

コロナの影響以前から既に顧客ではなく個々のお客様との繋がりを意味する「個客」との関わりは変化しています。コロナ禍以前よりオン(ネット)とオフライン(実店舗)の境目が無いアフターデジタル(常時デジタルで繋がった世界)は世界中で進行しており、例えばオンライン店舗のAmazonがリアルな店舗Amazon goを出店して、オンラインを起点に個客理解の為のデータを獲得し個客との接点を拡張しています。今回その最中新型コロナの世界的流行により加速されて、アフターデジタル時代への対応はwithコロナ時代の処方箋にもなりえます。

このような時代の変革期において、ショッピングセンターに求められる役割として、生活必需品の供給拠点としてよりむしろマズローの5段階欲求の上層である社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求に対応するいわば、不要不急なものやことを供給できる拠点としての役割が大きくなると思います。

現にショッピングセンターを訪れる人は、欲しいものが予め決まっていない非計画購買の方も多く、多種のブランド(商品・サービス)の中から接客を通じて納得が得られる商品やサービスとの出会える場所として捉えられています。即ちこれからのショッピングセンターの役割は施設内を回遊してその時に出会う複数のブランドの認知・体験の相乗を創ることでブランドとの絆が生まれ、その体験を通じてプランドと個客の絆が強まるプラットフォームになりえます。

 

企業競争の焦点が「製品」から「体験」へ

 

ビフォーデジタル時代のショッピング体験は、個客が来店した時に提供していたのは、商品と接客のみで価値を提供していましたが、アフターデジタル時代では、来店前に既にスマホのアプリなどデジタルで接点を設けて、商品情報のみならずコミュニケーションを持ち、来店中は商品・接客に加えてデジタルによるサービスを提供し、来店後も継続的な関係を構築していく事前、時中、事後を一貫する取り組みが必要となってきます。そこで重要なのは、デジタルを駆使して個客を理解した上で、より良い体験を提供することです。

 以前からパルコは、デジタルの活用に様々な実証実験と実装に積極的に取り組んできました。実店舗であるパルコを起点にオンラインではオンラインストアをはじめ、ショップ定員の方がブログを書き込みオンラインでの注文も受けられるカエルパルコやパルコ店内を歩くとコインが貰えるポケットパルコなどスマホアプリとして提供しています。個客のニーズとテナントのMDをネットとリアル双方の個客データを元にAIを駆使して、顧客ごとにマッチングできるデジタルSCプラットフォームの構築など意欲的に取り組んでいます。

今では、スマホアプリによって来店前、来店中、来店後の個客の行動分析により個客の理解が一層可能となりました。また、アプリを通して利便性を提供することで絆を結び休業期間中においても多くの方に利用されていました。

前述の通り、現在の状況において顧客心理としては、感染リスクを回避する為必要以上の滞留時間はかけず人との接触を避けたい、その為短時間で人との接触が無く、欲しい商品が確実に手に入るサービスを提供する必要があります。一方従来海外から来店される方も多かった為、世界中どこからでも求められる商品やコンテンツの希少性や唯一無二の提供、個客との信頼構築として、デジタルを活用しながらオン・オフラインを組み合わせて短時間で購入できる仕組みの提供やSNSなどのオンライン接客の対応も試みています。

ユニークな取り組みは、渋谷パルコ発のオンラインストアやオムニチャネル売場ゾーンのパルコキューブ、ショップ応援クラウドファンディングの立ち上げ、完全無観客LIVE配信、劇場パルコステージ@オンライン、ミュージアムオンラインギャラリーなどを展開し、特に完全無観客LIVEの際には海外からを含め4時間で20万人の観客が訪れました。

 

Withコロナ時代にショッピングセンターに求められる役割

 

以上林氏が述べているように、今後小売業では顧客との継続した繋がりを持つためには、デジタルが必須であり機能の提供のみならず、実店舗同様の接客やコミュニケーションが求められ、それによりいかに満足を感じてもらえるかがカギとなります。商品を提供する場としての存在から、いかに信頼を寄せてもらえる価値を提供できるかにかかってきます。施設提供側と各テナントの関わり方も、場の提供者と利用者という関係からそれぞれが得られるデータを共有、活用してテナント側とショッピングセンター側が相互でバリューを出し、個客に対して良質な情報・サービスを提供していくと言う共同体の発想が必要になってきます。

テナント料の取り決めについても、従来の売上に対する一定割合を頂く契約から、今後は、LTV(ライフタイムバリュー)、個客との接点数、データの提供量と質などによる新たな指標を考える時期に差し掛かってきたのではないでしょうか。その意味でも今後の社会情勢、環境を踏まえて個客に納得して頂く価値と繋がりを一層深めていく必要があります。