第46回:持続可能な企業として新たな事業への展開を考察する

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

ようやくコロナ禍前の賑わいを取り戻しつつあり、年が明けて今年から新たな取り組みを検討されている企業もあることと思います。しかしながら、経済環境においては未だ紛争が続き、原油の高騰によるエネルギー価格の上昇や、それによる原材料・物価の上昇、今後の慢性的な人手不足による人材確保の困難と人件費の上昇、商品価格への転嫁が思うようにいかない等企業として解決すべき問題も山積しています。そこで、今回は将来に向けて持続可能な企業として存続する為に、新たな事業の創造と展開について述べていきます。

 

現在企業が抱える課題を数値と合わせて読み解く

 

2023年9月時点の日銀短観によれば、大企業は、製造業、非製造業ともコロナ禍を乗り越えて、一転して1991年来、32年ぶりの高い水準にポイントが改善され上昇傾向がみられます。一方中小企業を見てみると円安により好調な輸出型企業に追随している企業を除き、横ばいの傾向がみられます。

中小企業に対して様々な支援をしている独立行政法人 中小企業基盤整備機構小機構(中小機構)の中小企業景況調査(7月-9月)によると、9月時点では業況判断DI(前期比季節調整値)は、前期(2,023年4月-6月期)から2.0ポイント減少(▲12.8)の他、建設業を除く産業別では卸、小売りとも微増回復し、年末までには全産業で上昇と見込まれています。

回復を見せた小売業について見てみると、売上単価・客単価ID(前年同期比)は、約31年ぶりにプラス圏に浮上するなど、一定の価格転嫁が進んでいますが、原材料・商品仕入れ単価とも上昇しており収益面では厳しい状況が続いています。

 

人件費の上昇と人材採用が課題

 

その他の経費に目を向けて見ると、エネルギー価格等の高騰により「人件費以外の経費の増加」、そしてコロナ禍後の経済活動の回復に伴って人件費が増加しています。景気回復は好材料ですが、今後も懸念されている人材不足が人件費の増加の要因ともなり、仕事は増えたがそれを担う人材が不足する現象も起こっています。新卒学生にとっては、過去の冬の時代から一転して概ね内定を早くから受けていることからも、企業側の状況が推察されます。コロナ禍ではリモートで業務を行う企業が多くみられましたが、落ち着きを戻したことから現在ではコロナ禍以前と同様に社内で業務を行う方向も進められ、更にコミュニケーションを取りやすい環境を作りあげていくことが求められて来ていると同時に、今後は貴重な人材に対して企業としてどのように接し、個人の成長を支援していけるか、不動産・設備投資等と同様に、人材に対する投資が重要な時代になってきます。

 

事業のドメインを再定義して新たな分野に挑む

 

今後、持続可能な企業として取り組むこととして、現在の事業においては、DXにより効率や生産性を向上させて売上と利益に貢献する方法も当然ですが、更に同時に自社のイノベーションを真剣に検討する時期であると考えます。

それは、なにも画期的なことを求めることでなくとも、今まで培ってきた技術、サービス、ノウハウを活かして他に転用できないか、それにより新たな分野に進出することができないか等を部署横断で検討することが必要です。

 

デザイン・設計・MDの技術ノウハウを活かして仮想空間を構築

 

ここでは例として、弊社が企画から運営まで携わっている株式会社GARDE(GARDE)が新規事業として展開する仮想空間(メタバース)を取り上げます。GARDEは、東京に本社を置きグローバルに商業施設の空間デザイン、オフィスデザイン・MDを手掛けラグジュアリーな空間を作り出す会社です。現在まで、世界的に著名な商業施設や店舗の空間、ホテル、オフィスなど手掛けてきました。コロナ禍においては、今後の展望を見据えて自社のドメイン領域を再定義し、自社のリソースを活用できるメタバースの分野に進出しました。通常メタバースを構築する際は、スケッチ画や写真等を題材として作りあげていきますが、GARDEでは専門とする技術・ノウハウを用いて、現実の空間を構築するのと同様に設計から手掛けて構築することを特徴としています。その為、より繊細な部分まで再現されたメタバースを表現することが可能です。

最初に手掛けたのが、NPO法人青山デザインフォーラムが展開する3030年の未来を想定したアートミュージアム「COCO WARP」(https://cocowarp.com/)です。このメタバースではアート作品の展示の他、デジタルミュージックルーム、マインドフルネスルーム、カンファレンスルームなどがリアリティを持って構築されています。このように、今までGARDEが培ってきた技術ノウハウや人的リソースが新たな分野で活用されています。

昨年は、展示会イベントにも出展し、現在「COCO WARP」は、世界的なゲームのプラットフォーム「Fortnite」内にも出店されています。今後は、デジタルアートをNFTでの販売、空間内でのイベントも計画されています。

アートミュージアム「COCO WARP」

メタバース総合展 筆者撮影

 

新規顧客開拓だけではない、既存顧客への新たな提案へ

 

今後新規ドメインでの展開は、新規顧客開拓のみならず既存顧客に対しての新たな提案としても有効です。自社のパーパス(存在意義)を示し、既に築かれている顧客との関係性を更に太くするきっかけを作ることだけではなく、社内に対して自社の今後の取り組みを示すことによりモチベーションを上げることや新たな人材を採用する際に、今後会社として取り組むことを示す機会になります。持続可能な企業とは、組織の大小にかかわらず、常に自社のドメインを再考して、絶えず時代に則したイノベーションを繰り返していく企業と考えます。その挑戦こそが今後の若者にとっても、新たな経験、技術、ノウハウを身に着けてこれからの時代に対応していける礎となり、自身の価値と存在意義を感じられることが重要となります。これからの人材不足時代をむかえるにあたって、企業として社内環境の整備だけではなく、人材に対する投資をしていくことが必要となります。年頭にあたり、一度自社の今後の展開を考えてみるのも良いでしょう。