第22回:SDGsとデザイン思考

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。新型コロナにより世界中の情勢が変わると同時に、私達の日常生活にも変化が出てきました。これからは、コロナ以前と同様の環境に戻るという考えから新たな時代に対応することを優先的に考えることが肝心です。私のコラムでは、昨年からSDGsを踏まえてCSR、ESG、CSVとの関連について話を進めてきましたがSDGsも単独で発想されたわけではなく、様々な経緯との関連性があることをご理解いただけたことと思います。今年は、さらに今後我々がビジネスや日常生活においての気づきや発想の転換となる考えなども取り上げ行きます。今までの延長線上では解決できない事柄や事象に直面した時でも、成長し続けるヒントにしていただければ幸いです。

 

未来を予測することは可能か不可能か

 

我々が日々営むビジネスにおいて、正常な状況であれば次の年の成長は、ある程度予測可能でした。しかしながら新型コロナによって、当たり前であったことが当たり前でなくなりました。例えば、日常のコミュニケーションを円滑するのに欠かせなかった居酒屋などの飲食業は国や自治体からの補助はあるものの、開店時間の制限や入店客数の制限、感染防止の為の投資などを余儀なくされました。花形産業であった航空産業は、国内外の移動が制限されることによって飛行ができず大きな赤字を抱えることになりました。一方、内食の需要の高まりによりUberなどのサービスが多く利用され、リモートワークの普及により関連業種のみならず部屋着需要が伸びるなど、この数年だけでも予測しえなかったことが起こって来たことは周知のとおりです。

このように、今までのように前年の延長線上の積み上げで物事を考える計画だけでなく、未来のあるべき姿やピジョンを掲げて、そこから現在時点との差異や課題を見出し、成長を続けていくバックキャスティング型の思考と計画が大切であることは以前述べてきました。その指針としてSDGsの目標達成を自社のビジョンや目標と照らし合わせて進めていくことにより、ステークホルダーをはじめ関連する社内外のコミュニケーションや連携を円滑に進めることができます。

 

 

ビジネスにデザイン思考を取り入れる

 

デザインと言うと芸術家やデザイナーなどクリエイティブ部署などの専門領域の人がもつ特別な才能と捉えられがちですが、その思考プロセスは今後、どの部署に所属していても求められる要素となるでしょう。なぜならば世の中は多様性に満ちており、SDGsでは全ての多様性を認めてインクルーシブ(包摂的)であることを目指しているからです。そこには、人間を中心において誰一人取り残さないことが明記されています。

デザイン思考では、利用者や生活者を深く知ることから全てが始まります。最近は「ペルソナ」と言う言葉を聞かれる機会も多くなってきたのではないでしょうか。自社の商品やサービスを利用する利用者(ターゲット)像を年齢、性別、年収など数値化できる情報のみでセグメントするだけではなく、あたかも人として存在しているがごとく趣味や性格までを想定した仮想の人物像をいくつも描くことから始めます。仮想の人物像を想定するのですからこのこと自体が創造的な要素を含んでいます。

 

デザイン思考のステップ

スタンフォード大学デザインスクール、通称「d.school」では、デザイン思考を次の5つのステップで展開しています。

 

  • 共感

先ほどのペルソナを顧客や利用者として見立てて、共感を得られるようにすることから始めます。実際には、ペルソナに近い被験者に対してインタビュー、アンケートを行います。そして、行動を観察することによって被験者が何に興味を持ったり共感しているのか、本当に求めているものはいったい何なのかを見つけ出していきます。留意しなければならない点として、ユーザーの回答は本音で語られているのか、聞き手の思い込みはないかなど吟味する必要があります。

(2)定義

上記でとらえた被験者の声を吟味して、商品やサービスに対する要求を定義していきます。商品やサービスを購入・利用して満たされる現実的なことの他に、その先にある潜在的な欲求は何なのかなども探って定義していきます。またカスタマージャーニーマップなどを作成して可視化、課題や問題を共有します。これにより、次の「創造」の段階で具体的な課題解決やアイデアやコンセプトが生まれやすくなります。

(3)創造

顧客や消費者のニーズが定義された次の段階として、アイデアや課題解決策を生み出すためにブレーンストーミングなどの手法を用いて、質より量を多く出していきます。この時留意することとして、この時出されたアイデアに対して実現可能や不可能は基準にせず、また批判や批評もしないことを前提に量を重視すること、できれば意見に偏りが出ないように考え方のバランスが保てるような人選することも重要となります。

(4)試作

「創造」で出たアイデアや課題解決策などを実際に試作品として作成したり、その解決策を実施してみます。この時重要なのは、完成品を作ることを目的とするのではなく、あくまでも目にすることができる形にする、または体感できることを優先して、早く失敗点や改良、改善点を炙り出していくことを目的としていきます。実際に施策や実施することが難しい場合は、ペーパー上やシミュレーションソフト上で作ってみることも考えてみましょう。これにより、気が付かなかった問題点や利点に気が付くことができます。

(5)テスト

最後に、上記で作った試作品やサービスをペルソナに近い実在の人物に試用して頂きそれを繰り返していきます。そこで、フィードバックされた意見や感想を参考として更にブラッシュアップしていきます。この段階で、定義した顧客や利用者のニーズがくみ取れているのか、更に改良する点や付加することがないかが明らかになります。また、必要に応じて、2~4の段階にさかのぼって更に顧客にとって良い品やサービス開発に結びつけていきます。

デザイン思考プロセス

 

まとめ

以上の通り、デザインを生み出す思考プロセスはこれからのビジネスにも応用がきくことであり、ビジネススキルとして重要な要素ともなってきます。顧客に寄り添うことが更に求められてきている現代では、もはやSDGsと同様に当たり前になり、その発想を持たなければ今後持続可能な企業として存続することすら困難になる時代になることでしょう。

フィルゲート株式会社 代表取締役 菊原政信