オフィスビルが立ち並ぶ一角から、程々離れた路地に3軒の居酒屋が並んでいます。駅に向かうには、その路地を通り抜けるのが一番の近道で、通勤の行き帰りで多くの人が通ります。このような光景はどこにでもありますが、集客となると3軒がそれぞれ特徴を活かして共存しています。各お店の視点と継続的な集客について考察します。
匂い(嗅覚)で呼び込む、掛け声(聴覚)で呼び込む、看板(視覚)で呼び込む
週末の金曜日、どの店も準備を終えて開店は午後5時からです。仕事を終えて駅に向かう人々が3件の店に近づいて来ます。
1番手前の店は、立ち飲み焼き鳥屋。通りかかる人に向けて炭火で串に刺した鳥の焼けた匂いを道路側に向けて放っています。匂いにつられて常連客なのか、振りの客なのか、次々に店の中に吸い込まれて行きビールと一本80円の焼き鳥を注文していきます。
2軒目の店は、店長なのか合いそうの良いお兄さんが、通り過ぎようとする人に「一杯目飲み物なんでも100円」を連呼しています。常連客に対して「〇〇さん、お疲れ様でした。一杯100円、ちょっと寄っていきませんか」と声を掛けて店内に呼び込み、店内スタッフに「〇〇さん2名」と伝え席に案内させていきます。
3軒目の店は、3件の中では一番シックな居酒屋。外には匂いも出さず、呼び込みもせず、外にはビールと鮮度の良さそうな刺身の写真を貼りつけたA型看板を立てて、お客さんの胃袋をくすぐっています。
さて、あなたならどのお店に入るでしょうか?
1軒目の店は、匂い(嗅覚)、2軒目の店は、声(聴覚)、3軒目の店は、写真(視覚)でお客を呼び込み、それぞれ7時頃には店内が埋まる状況になりました。
人は、その時の状況、誰といるのか、一人でいるのか、楽しい気分、ふさぎ込んだ気分等によっても取捨選択を行なっています。
顧客を育て、継承して頂く
ドラッカーは「企業の目的は顧客の創造である」との名言を残しています。これは、規模の大小に関わらず全ての事業に当てはまり、たとえ1軒の居酒屋であっても例外ではありません。
お店の内外装、料理の質、値段、サービス等お客様に満足して頂き、ひいきにして頂く等様々な要素があります。
そこで、今回例にあげたお店に最初に来られたきっかけは、どんなことだったのだろうかとあれこれ考えてみました。
ぐるなび等のインターネットサイトやタウン誌で見つけた、タウン誌で知った、知り合いに聞いた等きっかけは様々でしょう。でも多くの人は、通勤で毎日この道を通り、朝の出勤時、駅までの帰宅途中、知らず知らずのうちに、これらのお店のことは前述の通りの五感情報を通して脳裏に刻まれてきているのではないでしょうか。
大抵はサラリーマンの人多く、最初は上司に連れられて、同僚と一緒に来られ気に入ればまた来る。上司が部下を、部下は同僚と、同僚はその部下と・・・連鎖的にお客様がお客様を連れてきてくれる。
やがて定年退職をむかえられ、その店には来る機会が少なくなっても、次の世代に継承されていかれているのでしょう。
ディズニーランドは今年30周年を迎えて、イベントや新たなアトラクションが設けられていますが注目すべきは、30年をお客様の人生に照らし併せて呼び込める努力を怠って来なかったからと思います。
つまり、最初は親に連れられて来た子供が、やがて友達、彼氏彼女と、やがて自分の子供とやって来る。
ある、家電量販店ではゲームの他、玩具を取り揃えています。最初は親に連れられ買ってもらい、やがて自分のお小遣いをためてオーディオプレーヤーを買い、やがて一人住まいや結婚で家電製品を買う。やがて、自分の子供を連れてきて玩具を買いに来る。もちろん、今時ですからポイントやクーポンを活用して。
客様が欲しているもの
マーケティング活動を行う際、今でも基点を決めて一次商圏は半径○○m、○○km、二次商圏は、とグルッ円を書いてこれを基準に考えられている場合が今でも多く見られますが、最近では、GPS、WiFiなどでの移動情報、趣味、趣向を含むビックデータ等も加えられ行動・購買分析がなされています。
今後は、今回の例の通り五感を通した、今まで捉えきれなかった定性的なものごとの捉え方や、ソーシャルメディアを活用して次世代への継承なども行われてくることと思います。
今まで漠然としていたお客様の欲しているものが、更に可視化出来きて来るのではないでしょうか。
ちなみに、私はこの三軒の居酒屋の内、二軒目の店が気に入りました。
なぜか?それは、「額に汗して呼び込みしていた店長」の「笑顔」がとても素敵だったからです。
個人的には、これはサイネージに映しだされた「バーチャル店長」にならないことを望んでいますが・・・。
フィルゲート 菊原 政信