第45回:新サービス共創のゲートウェイ化する未来のATM

日本中にATMはありますが、その歴史の中で様々な進化を遂げています。そこで今回は、2023年10月26日、61回目となる次世代小売り流通研究団体Next Retail Labフォーラムの内容を中心にお伝えします。

今回は「新サービス共創のゲートウェイ化する未来のATM」をテーマにセブン銀行執行役員企画部長の清水健氏を講師に迎え、進化するATMの新しい形、「人と企業を繋ぐ」という新サービスや現金を出し入れするという従来の役割から進化を遂げ、データを活用した新たな価値を提供するATMの形、そしてセブン銀行が目指す未来についてなどについて語ってもらいました。講演に続いてNext Retail Labのフェローも参加したディスカッションが行われ、銀行の役割、キャッシュレスの社会など、さまざまな論点で議論が交わされました。

新サービス、事業ポートフォリオ再構築による「第二の創業」、ATMを通して人と企業をつなぐセブン銀行

 

新しいスキームを生み出し順調な成長、国内のATM設置台数の約15%を占める

 

セブン銀行はセブン&アイホールディングスのグループ企業としてATMを中心に国内外で幅広い金融サービスを展開。2002年の開業以来、ATMの設置台数や利用件数、経常収益など順調に成長を続けています。2022年度の経常収益は1550億円で国内23位、経常利益は289億円で国内24位で、国内のトップ地銀と同程度の規模感だ。課題は利益率の改善で、売上は伸びているものの一時期300億円を超えていた利益が投資などの影響で若干減少傾向だといいます。事業としては、法人事業、リテール事業を行う国内グループ企業に加え、アメリカ・インドネシア・フィリピンでもATMを設置し、国内外に広く展開しています。

現在売上の中核を為すのは、国内のATM事業。セブン銀行のATM事業のビジネスモデルとしては、提携先の銀行やPayPayといった事業会社からの手数料が売上となるBtoBビジネス。ATMの利用者が支払う手数料は、セブン銀行ではなくそれぞれの提携先に入る仕組みです。

顧客がセブン銀行のATMを使った場合、その手数料はセブン銀行ではなく提携した銀行に入り、銀行が顧客からの手数料とは別の銀行間手数料を1件いくらという形でセブン銀行に対して支払う仕組みです。さらに、保守メンテナンスなどATMを運用するための費用はセブン銀行が負担しています。現在、セブン銀行では約35行の銀行からATM業務を受託し、セブン銀行の看板ではなく委託元の銀行のATMとして設置する事業も行っている。ATMにかかる開発や保守メンテナンスといった費用をかけずに顧客がATMで取引できる仕組みとして活用し、セブン銀行にATMを全て依頼している銀行もあるといいます。

こうした仕組みを作り上げたことで、セブン銀行のATM設置台数は大きく伸び、現在国内に約27000台、日本全体のATM設置台数に占める割合は約15%となっています。

 

利益率やグループ全体に占める金融事業の収益課題

 

セブン銀行では事業ポートフォリオの再構築をはかっています。2022年度の経常収益は約1500億円で、そのうち約7割が国内ATM事業によるものです。2025年度には経常収益2500億円を目指していますが、国内ATM事業は現金離れや少子化の影響で、それほど大きな成長は見込めないとして、その分、法人・リテール事業や海外のATM事業の伸びを期待しています。清水氏によると、その成長を支えるのが、事業の多角化です。セブン銀行の口座ビジネス、個人向けフリーローン、外国人向けの送金や保険などのリテール事業や、金融機関や自治体の事務受託、本人確認の認証基盤の提供などの法人事業に力を入れています。加えてアメリカ、インドネシア、フィリピンの三か国で約18000台のATMを設置し、海外事業も伸びるという見立てです。

 

情報をキーに人と企業をつなぐ新サービス、「+Connect」とは

 

さらに今年9月、セブン銀行は新しいサービス「+Connect(プラスコネクト)」を発表。これまでATMはお金を出し入れしたり電子マネーにチャージしたり、現金をキーとした存在だったが。それを進化させ、今後は情報をキーにATMをあらゆる手続き・認証の窓口と、人と企業をつないでいこうというものです。ATMを使った口座開設やQRコードによるホテルのチェックイン、本人確認が必要な会員登録手続きなど、銀行に限らず企業や自治体などとの幅広い提携を想定しています。この新しいサービスを可能にしたのが、セブン銀行がこれまでに培ってきた様々な基盤です。第四世代と呼ばれる顔認証などができる多機能のATMや、事業で関わってきた多くの企業や自治体との連携、ATM1台ごとの利用状況などをデータを使って詳細に分析してきたスキル、そして誰でも使いやすい工夫を重ねた操作画面のUI・UXなど、その強みは多岐にわたります。

今年度は、ATMによる口座開設や各種の変更届など、銀行の窓口業務利用を開始。今後は銀行以外の金融機関や決済事業者、事業会社や自治体などに対象を広げ、2025年に売上40億円、その後5年から10年以内に売上500億円を目指す想定です。

 

セブン銀行は『お客様の「あったらいいな」を超えて、日常の未来を生み出し続ける。』をパーパスに掲げています。清水氏は「私たちは、今目の前に顕現化しているものだけではなく、お客様のニーズを先取りするということを常に意識しています。その実現のために、お客様の立場で考える、新たな挑戦を続けるというセブン-イレブンから受け継いだDNAを大切にし、新たなサービスを生み出し続けたいと思います」と、今後の事業展開に向けた抱負を語っいます。

 

フェローディスカッション

「デジタル給与解禁」で、現金離れはすすむのか

 

給与のデジタル化は、我々にとってポジティブな話だと思っています。プラスチックカードを使わずにスマホだけで取引できるATMは基本的にはうちだけなんです。PayPayなどの決済サービスが、今後電子マネーのカードを発行することはおそらくないでしょう。そうすると、振り込まれた給与をどこで引き出すのかというと7ATMになるはずです。

 

グループの強みを生かした、セブン銀行がとるべき戦略と

 

セブン-イレブンアプリにはPayPayのボタンがついています。ちなみに、もともとあそこは、サービスを廃止した7payが仕込まれる予定だったところですね。今後は、セブン銀行としてきちんとした金融のアプリを作り、セブン-イレブンアプリとしっかり連携をしていきたいと思っています。そのために、我々は電子マネーのnanaco、クレジットカード会社をグループに持っているので、今後は、一体となった戦略・サービスが必要です。例えば前払いのときはnanaco、後払いのときはクレジットカード、それに銀行口座を活用したデビット機能など、多様な支払い方法に対応できるアプリを出したいと思っています。しかしすでにそうした機能を持つアプリはすでに世にあるので、セブン-イレブンのお客様に最適なものは何かという視点で、知恵を絞っているところです。

 

まとめ

 

セブン銀行により、現金を出し入れするためのものだったATMは大きく進化しています。あらゆるサービスの窓口として人々の生活に浸透していくのか、そして金融業界や社会全体を動かす新たな価値を提供できるのか、今後の動向が注目されます。