第42回:就職活動で内定を受けたZ世代はどう生きるか

前期の大学の授業も終わり、大学4年生にとっては最後の夏休みをむかえています。日頃大学生と接していて感じるのは、入学してからは新型コロナの影響により授業も対面からオンラインなり、学園祭等のイベントも中止となり本来の学生生活を謳歌できなかった世代でもあります。その間、教員や学生間でのコミュニケーションもSNSなどを中心としたものにシフトしました。この「コロナ世代」が大学生活を送る中で得た経験は、彼らが将来企業でどのように適応していくべきかという点で重要です。既にコロナを経験した学生を受け入れている企業も、今後の世代を活躍させるための社内体制や方針を検討する必要があります。

SDGs思考と自己の存在意義を探るZ世代

 

既に学校教育の場において、今の学生達はSDGsを学んでいます。それは、単に座学としての知識だけでなく、自ら進んでSDGsの目標を個人として、また社会としてどのように実践していけば良いかを模索しています。私が見る限り、4年生の卒業論文においてもSDGsが色濃く反映されたテーマを選ぶ学生が増えてきました。その背景にはこれからの地球環境や行動は自分達が作って行かなければならないという想いの現れと共に将来への不安や期待が表現されてきています。

なぜ、これ程までにSDGsに対して興味を持つ学生が増えたのかを考察してみると、2011年3月11日に起きた東日本大震災の影響があると考えます。現在の学生は幼少期でしたがテレビ、ネットで毎日のように報道されるショッキングな映像を見て大人以上に多感な世代であることから衝撃を受けたことは想像に画たくありません。実際に学生に聞いてみると当時フィクションの世界ではなく、現実に起こったことを目の当たりに見て衝撃を受けたと答える学生が多くいます。その後、2015年にSDGsが採択されて高校時代には、再興に向けてひたむきに働く人々の姿を見て自分での何かできることはないかを見つけて行動に移していたという学生も見受けられます。このように、社会に貢献すると共に自身の存在意義を見出すきっかけになったと語っています。これから社会に出てそれぞれの職場を通してあるいは、個人としてどのように社会貢献できるのかまた、同時に自分の存在意義(パーパス)を両立できる環境を求める学生が多くなるでしょう。

 

個性を保ちながらマスに溶け込まないZ世代

Z世代は、マスメディアからの情報よりもむしろソーシャルメディアを活用して情報を取得し、多面的に発信をしていると言われて久しくなりました。WEBにおいても、企業の一方的な情報に頼るだけではなく、WEB2.0と言われるソーシャルメディアに情報の受発信に信頼性を寄せるようになりました。ソーシャルメディアの中でも既に電話での通話以上にLINEでのコミュニケーションがあたりまえになり、Facebook、Twitter(X)からInstagram,最近ではTikTokでのコミュニケーションへと変化してきました。これらは、就職活動を行う上でも大きな武器となり、企業のサイト、就活サイトの情報に加えて就職活動中の友人との情報共有や、既に社会人となっている先輩などとも積極的に連絡をとり情報を収集しています。今後はWEB3.0時代をむかえるにあたって、コミュニケーションにおいても更に進化を遂げていくでしょう。

また、一部の報道などではZ世代は自己肯定感が低いなどと言われていますが、実際に学生達と深く話をしてみるとそのようなことは無く、プライベートにおいては個人のこだわりや以前は「オタク」と言われた文化もそれぞれの趣向にあった「推活」と言われる文化に変化し、そのことを自分の個性として表現しています。最近では、マスマーケティング以上にファンマーケティングとして企業側も注力される時代となりました。ジェンダーや多様性についての認識が高く、既に普段の生活環境の中にとりこんでいます。これらの特性を企業のコミュニケーション戦略や組織文化に活かすことは、成功への鍵となるでしょう。

 

新入社員を受け入れるための企業の課題と展望

 

残り半年ほどすると、卒業して社会の一員として長い人生を送ることになりますが。コロナがおさまりつつあり、、昨年あたりから徐々に対面の授業が行わるようになりました。4年間の学生時代はコロナ真っ只中であった学生達にとってほぼオンラインでのコミュニケーションが行われて、当然就職活動でも企業との面談ではオンラインが中心に行われてきました。このような状況でありましたから、学生同士も社会人と対面での面談は初体験の年となり事前の準備はしていたものの、いざ対面となると思っていたことをうまく伝えられなかったという話を例年以上に多く聞かれました。その意味でもコロナ禍で大学生活を送った学生にとっては、今までにない境遇で過ごしてきた「コロナ世代」と言えます。しかしながら、前述した通り学生個々人は決して自己肯定感が低いわけではなく、返ってこの期間を通して不安を感じる中でも、改めて自己を見つめ直して本来自分が求めていることに注力して活動をすすめていく傾向も見られます。企業の面接では以前であれば大学でどのような活動をしてきたかと問われる場面がありましたが、今の学生にはその体験が無く、企業側は、入社後数年は人材育成期間とする余裕もなく、入社後実践で使える人材を求める傾向が増しています。大学は本来学業に専念する場でしたが、近年は企業に求められる人材、特に今後を見据えてデジタルに不可欠となる知識や技術を在学中に学べるカリキュラムを取り入れるケースが増しています。

では、学生が就職を希望する企業とはどのような企業でしょうか。人により千差万別ですが、学生にとって給与や待遇のみならず、自分の存在意義を感じられる環境やそれを認めてもらえる組織を求めています。新入社員に限らず、企業としてウェルビーングな社内環境を整えていかなければならいことに他ならず、企業として留意しなければならない重要な課題です。一方、既に伝えたように今の学生は様々なSNSを縦横無尽に使いこなしていることから、その感性を企業の宣伝手法として取り入れることもできるでしょう。ニュースで報じられたビックモーターの不正請求事件の中で行われていた、上司からのノルマ達成に向けたLINEでの恫喝まがいのメッセージなどは、企業としてコンプライアンスやモラルを問われることになります。それが貴重な人材を失うことに繋がり、その悪評がSNSで拡散されるリスクまでもを考慮してSNSの活用やコミュニケーション戦略の見直しも必要であり、企業の評判や信頼性はこれらの手段を通じて広まることになります。

 

人材価値を重視する時代へ

 

最近では、財務上の資産以上にノウハウ、組織文化、人材などが無形の資産として捉えられるになりました。特に今後の人材不足の時代に対応する為には社内体制の在り方や人材の活かし方を持続可能な組織としていくためには、今まで以上に真剣に考えて行かなければなりません。社会経験は浅くとも伸びしろのある人材の能力をいかに高めていけるかも、将来の企業価値の向上には必須になります。来年の春には、大学生活に別れを告げて、希望に満ちた学生達の素養を伸ばせるかは、本人の努力もありますが社内の風通しや先輩、上司の対応にかかっています。新入社員の成長に向けて、企業は真剣に取り組むべき課題と展望を見つめ直す必要があります。