第33回:仮想空間とリアル空間の融合

仮想空間やメタバースと言うと非現実的なイメージを持たれますが、現時点では実社会を投射したデジタルツインと言われる現実と仮想が同等な次元で使用される意味合いにとられている場合が多いです。実際には恒常的に存在する空間があると言うよりも、むしろイベントなどで使用されるケースが多くみられます。そこで、今回はリアルなイベントで展開されていた仮想空間を例にしてお話しをします。

 

コロナが変えた新たな社会コミュニケーション

 

コロナ禍において、毎年開催されていた様々なイベントが中止もしくは延期をよぎなくされました。そこで注目されたのが仮想空間であるメタバースです。コロナ禍では非接触、リモートが必須になり、日常の仕事や打合せでオンラインを通じてのコミュニケーションが取り入れられて職場や学校などでも活用されてきました。オンラインでのやりとりは便利ではありますがモノの細部を見たり、イベントのような賑わいを演出するまでには至らないのが現状です。そこで、これらの課題を解決する為に注目されたのがメタバースという仮想空間です。仮想空間であれば、移動時間や物理的な距離の制約を受けずソーシャルディスタンスを気にする必要もありません。モノを見て購入するだけであるならば、ECサイトでも可能ですが、その画面の中では閲覧者同志がコミュニケーションをとることができません。それを解決したのがメタバースであるとも言えるでしょう。ただ空間を仮想にするだけではなく、その世界に存在する人物もアバターとして登場することができます。

現実のイベントに行くメリットとしては、会場の区切られたブース等で商品やサービスの現物やパネルを見るだけでなく、出展ブースのスタッフから直接説明を聞いたり質問をする、またはデモンストレーションを見たりセミナーや講演を聞くことでインターネットや雑誌の情報では得られない貴重なことを知ることができます。

最近では、これらリアルのイベントでしか体験できなかったことを仮想空間上で再現しようとする試みが増えてきました。

 

リアルなイベントで仮想空間の利用が加速する

 

先ほどお話しましたが、コロナ禍においてはリアルな会場で行われてきたイベントの数も減りもしくは縮小されました。昨年開催された東京オリンピック等もその例の一つです。開催が一年延期された上に、各会場も無観客という状況であったことは記憶に新しいことです。最近では、コロナもワクチン接種や私達の日頃から感染に気を付けてて店舗等でも消毒、検温により感染者の数も減ってきました。そこで、今年の後半からはリアルなイベントも再開されるようになってきました。会場では、人との接触を避けるため、チケットの購入や入場の際の確認もQRコードやスキャナが活用される状況にもなってきました。会場入場時には、イベントに限ったことではないですが、当然消毒、検温のプロセスを経て密閉された空間内での感染防止に努められています。会場内では今までは出展者と参加者の名刺交換がされていましたが、直接の接触を避けるためバーコードスキャナーで名刺交換がされる取り組みもされています。現実世界でありながら、オンラインで活用されていたこれらのことがリアルな会場にも導入されている場面が多々あります。

仮想空間との連携では、来場者に対して今まで通り会場マップの配布に加えてスマホで専用のサイトにアクセスすると会場の仮想空間に接続されて、2次元でのマップでは表現できなかった各ブースまでの行き方を3次元の立体画像空間で歩くことができ、多くのブースの中から目的とするところまでどのように行けば良いかを示す試みもされています。これを利用することにより従来は案内の係員を探して聞くということが少なくなり、来場者、主催者共に有効なサービスが可能となりました。

 

リアルと仮想をつなぐ2.5次元空間

 

前述の通り、リアルなイベント空間でも仮想空間の技術が取り入れ始められましたが、当然仮想空間ならではの利用方法もあります。例えばリアルな空間であればセミナーや講演に参加する場合、席数に限りがあるので事前に予約もしくは抽選となるケースが今まででした。これからは、仮想空間であれば席数について気にすることなく予定数を超えても更に追加することも可能となり、リアルな会場でされている講演でも、講演会場まで移動せずとも手元のパソコン、スマホ、あるいはヘッドセットを利用して視聴することが可能となります。このようにリアルな会場で直接参加できると共に、同時に仮想空間でも視聴できる環境が整えられことも可能です。参加からの質問に対しても決められた数にしか時間内で答えることができませんでしたが、登壇者と参加者がPC,スマホなどの繋がっていることから、あらかじめ投げられた質問に答えられるのはもちろんの事、講演の最中でも質問アンケートを投げかけて視聴者は答えた結果がその場で集計表示されるということも可能になってきます。一方的な講演が登壇者と視聴者が一体となって作りあげていく新たなシーンもこれからは生まれてくることでしょう。通常、講演が終わった後は講演者と視聴者の繋がりは断たれてしまいますが必要であればイベントの開催後は仮想空間で更に深堀された内容の話やディスカッションをすることも考えられます。リアルでは今まで不可能であったことが、仮想空間と連携することにより新たな展開が可能になります。

 

仮想空間からリアルな空間を俯瞰する

 

現時点では現実の世界感を仮想空間・メタバースとして再現したりそこでのコミュニケーションについての話題が多いですが、今後仮想空間が発展して一般的になってきた場合、現実の世界はどのようになっていくのでしょうか。また、その価値は薄れていってしまうのかをここでは考えてみたいと思います。

1990年半ばにインターネットが商業利用されるようになり2000年代に入ってからはアマゾンの日本でのビジネス展開も始まったなどによりECの需要と供給が向上してきました。当時はPCでの利用が主体でしたが、現在ではスマホでの利用が多くを占めています。当時これからは、リアル店舗の存在価値は無くなり今後は、買い物体験は全てECで展開されるだろうと言う声もありました。。しかしながら日本国内においては、業種業態で差はあるものの、20年以上経た今でもEC化率(購買に全体に対するEC割合)は全体で8.78%(経済産業省:2021年電子商取引に関する市場調査報告書)と10%にも満たない状況です。これと同様に今後仮想空間が発展、利用される自我が訪れたとしても人として対面でコミュニケーションを取ったり、リアルな場ならではの臨場感や質感を感じるまでにはまだ間があると考えます。

以上から、仮想空間からリアルな世界を見た場合でも、リアルな世界で展開されていることを再現するには課題も多く、現在はリアルな空間との間にある次元と言って良いでしょう。今は、実験段階のものが多く社会生活やビジネスで成功している例が少なく評価が難しいところですが、これからデバイスの進化と普及、通信環境やインフラ設備の拡充、更に重要なのが我々が日常生活で体験できる場や環境の普及がカギとなりECで買い物をしているくらい身近になった時こそが本当の仮想空間の実現と呼べる日が来ます。