小売り店舗は商品を陳列して接客をして売ることを行っています。これはしごく当然と思われますが、ここに来て店舗に商品は陳列されているけれども販売を主たる目的としてしない店舗、いわば「うらない店」が注目されています。店舗として特徴やビジネスモデルなど、どのような取り組みをしているのかをお伝えする為、5月に次世代流通の研究会Next Retail Labの第47回フォーラムに登壇して頂いた、この分野の先駆け的企業であるベータ・ジャパン株式会社CEO 北川卓司氏の講演内容を踏まえて「うらないお店」の取り組みについて考察していきます。
体験型ストアとは
売らないお店は別名、体験型ストアと呼ばれることもあります。これはお客様に対して、「小売店舗(リテール)を通じて新たな”発見”をもたらす」ことを意味しています。つまり、販売・購入という行為以前に、商品について手に取って頂き良く知って頂くことを優先的に考え、店舗スタッフも販売することよりも、店舗の商品についてご案内することを優先します。これは後に説明しますが、ビジネスモデルが従来と根本的に異なります。b8taは2015年にサンフランシスコで創業し、オフラインの出品をオンラインのEC店舗に出品するのと同様に、気軽に、早く、安価に実現することをコンセプトにその場となるプラットフォームを提供しています。b8taが日本に持ち込んだRaaS(Retail as a Service)とは店内をいくつかのブースで区切り、その出店区画を商品やサービスをオフラインで出品したい人に向けて、サブスクリプションと言われる月額制で貸し出すビジネスモデルです。実際に来店されたお客様には、偶然の出会いを楽しんでいただこうということをコンセプトに、新しい体験と発見を提供しています。店内のあらゆるところにAIカメラやデモグラフィックカメラを設置して、来店される顧客の行動データを一元管理し、そのデータ提供を出店者にフィードバックしています。セレクトショップとの違いは、バイヤーによって売れそうなものを品揃えするのではなく、商品の選択は出展者に委ねられています。コロナ禍と言われながらも今年に入り渋谷と越谷への出店は、更に進んだ体験型ストアを見据えた「実証実験店舗b8ta 1.5」というコンセプトで立ち上げました。このコンセプトを元に、五感に訴えかけることを目的に、食品カテゴリーの拡充やカフェカウンターの設置による試飲試食の新たな体験を提供することが可能です。また、独自のアプリを用いたデータ取得や店前通行量の把握を行い、新たなデータ取得方法も試みられています。その他には、可動式什器による大胆なディスプレイ変更や自由に色が変わる照明などフレキシブルな展示エリア、イベントスペースの提供というリアルな店舗ならではの工夫も展開しています。
新たな取り組み
新店舗として、越谷レイクタウンという従来の都心の立地から郊外型への進出は、商圏人口の多さ、都内店舗との来店客層の違い、店前交通量が高い立地、スターバックスの同日オープンにより新たな顧客獲得の可能性、都心からのアクセスなどが挙げられ、ファミリー層という新たなお客様ポートフォリオの獲得も目指しています。新店舗の は「4th Place」というコンセプトの元、「都市の中庭、出会いのグリッド」をイメージした設計になっています。店舗内には、ライブキッチンスペースや、スターバックス様との共同イベントスペースや自由にレイアウト可能な組み換え式什器なども設置しており、既存の3店舗からえた学びを活かした店作りを行なっています。他店舗との差別化としては、キッチン家電を実際に利用し、調理可能なライブキッチンスペースの設置や、提携したRentio株式会社経由で気に入った調理家電やその他家電をその場でレンタル可能なサービスの提供、4つのイベントスペースを設置している点が挙げられます。
日本にはRaaSが定着するか
北川氏は、RaaSは日本で定着すると考えています。その理由として2つ挙げられています。1つ目はオンラインとオフラインの融合(OMO)が進むと、b8taのようなモデルが浸透する可能性が高いことです。ただ、RaaSもカテゴリーによって細分化するのではないかと分析しています。例えばb8taのように体験と発見に重きを置くと、雑多なものを並べることになってきます。しかし多種多様なプロダクトを置いている店舗に対して、来店者に特定のカテゴリにフォーカスした店という認識を持ってもらうことはできません。つまり同じ体験型店舗でも、アパレルやコスメなど、カテゴリーを限定する方が店舗と顧客の双方にとってメリットがあるため、今後このようにセグメントした店舗が増えていくと予測します。2つ目の理由は、個人情報と取得データの紐付けです。これはRaaSが定着するための次のチャレンジでもあり乗り越えていく課題として捉えられます。店内でのデータは取れるが、それをどう使えるかが新たな問いになってきます。「売らないお店」に限らず、個人情報の取り扱いには慎重でなければならない中で、どのようにしてオンラインとオフラインを紐づけていくのかが重要になります。つまり、会員の来店時に、予めオンラインで獲得していた情報とどのように紐づけて、個人に合ったサービスを提供するかということです。例えば、何回目の来店か、前回購入した商品は何かなどが分かれば、より深い体験を提供できるでしょう。そのようにサービスをブラッシュアップできれば、b8taとしても、また全体としても、RaaSは定着するであろうと北川氏は話しています。B8taとしても、まだ知らないものをたまたま見て興味を持ってもらうためにはどうすればよいか、どのような体験を提供できるか、日々新しい訴求方法を探っているそうです。
新型コロナの影響により、以前よりオンラインでの買い物やサービスを受ける人は増えましたが、発生から2年が経ち街中にも人が戻って来たように感じられます。買い物は実際に手に取ってしたいという消費者の要望は変わらず強くあります。そのため、リアル店舗での買い物も今後は回復してくることでしょう。ただし、店舗側も以前と同様のお客様との接点を持つだけでなくこれからの店舗の役割は、販売そのものではなく、b8taのような出会い・体験・実感にますます重点が置かれていくことでしょう。これが新たな小売業の形態として根付いていけるかどうかは、消費者の支持をどれだけ得られるかにかかっています。
フィルゲート株式会社 代表取締役 菊原政信