戦後の近代流通に関して百貨店の役割は大きく、人々の暮らしの向上と繁栄に貢献してきました。しかしながら時代の変化と共にショッピングセンターや専門店、21世紀になってはインターネットの発達により、いつどもどこでも好きなものが買える時代となってきました。それに伴い百貨店店の売り上げは1991年をピークに年々減少して21年では4兆4千億と最盛期の半分以下となりました。この数年コロナによるインバウンド需要の消失も加わり更に厳しい状況が続いてきましたが、その中でもこれからの時代への展開を踏まえて新たな動きも出てきました。そこで、今回は4月に次世代流通の研究会Next Retail Labのフォーラムに登壇して頂いた株式会社三越伊勢丹営業本部オンラインストアグループ長、北川竜也氏の講演内容を踏まえてこれからの百貨店の取り組みについて考察していきます。
DXをどのように定義するか
近年では、DX(デジタルトランスフォーメーション)と言う言葉を聞かない日はないくらいニュースやセミナーが開催されています。では、このDXとはいった何なのか、三越伊勢丹ではこれを、CX(コーポレートトランスフォーメーションそのもの)であり三越伊勢丹グループが築き上げた価値(ブランド、安心安全、信頼)をベースにお客様、市場の普遍的なニーズ(憧れ、ワクワク、楽しみ)をとらえ、それらを商品/サービスとしてお客様に提供するための仕組みを作り、それらを支えるビジネスモデル/仕事のやり方を作るため「変化し続ける」ことであると定義しています。つまり、デジタルツールの導入がデジタル化やDXでは決してありません。
コロナ環境下の第一の変化として、2020年度はcovid-19の影響を大きく受け、特に中核となる百貨店業は、2か月間店舗休業もあり、来店顧客数が大幅に減少、また周辺事業についてもそのあおりを受け、軒並み前年(2019年)を大きく下回る結果となりました。第二の変化としては、富裕層の消費は戻っておりむしろ伸びている。2020年後半から、MIカードポイント率10%のお客様の購買は前年超えショッピングが持つ、エンターテイメント性、非日常性等の人生を豊かにするという「役割」を強く認識しました。第三の変化としては、百貨店総合ECであるMIオンラインはリニューアルも行い130%を超える伸びがあり、新規デジタル事業として3年前から順次スタートしている特化型ECサイト。(meeco(化粧品)、ISETAN DOOR(定期宅配)、MOODMARK(カジュアルギフト)、ふるさと納税等)は合計で200%を超える伸びとなりました。この経験から、2020年~21年を過ごして分かったこととしては、本能や本質は変わらず、常識や習慣はきっかけ次第で簡単に変わるということです。三越伊勢丹が300年を超える歴史の中で提供してきた価値は、人間の本能に訴えるような、本物・本質がその根底にあると思っています。だからこそ時代を超えて続いてくることができました。偉大な先人と今働いている方々の仕事の積み重ねが作ってくれたものです。お金の遣い方、余暇の過ごし方、情報収集の手段等、我々が日々の生活の中で行っている行動は大きく変化しました。当然ビジネスもそれに伴って大きく変化しなければなりませんが、我々が見失ってはいけない価値がそこにあることを改めて考える期間ともなりました。
DX戦略の根底
三越伊勢丹では、DX戦略を実行する上で、以下のことを挙げています。1.業態、自社の特性をしっかりと明文化する2.自社の特性(強み)をベースにし、顧客への提供価値を再定義する3.価値提供を成り立たせる抜本的な仕事のやり方を変更する。言い換えるならば、得意領域である「店舗/人/商品」に焦点を当てて、“圧倒的に”レバレッジを効かせられるデジタルサービス/機能を具備し、リアルでもオンラインでも同じようにお客様の期待に応えられる状態にすることです。提供価値、手段を再定義して、多様なお買いもの体験をリアルとデジタルでシームレスに提供することを第一義に考える。シームレス化とは、オフラインとオンラインの垣根なく、『楽しい買い物体験』を実現することと考えています。
興味深いデータとして、百貨店(日本橋三越/新宿伊勢丹を例に)の売上の50%~60%は、近隣5~6区にお住まいのお客様の購買で成り立っており、店舗のコンバージョンレートは100%を超えています。また、ECと店舗の両方を目的や用途に応じて使い分けて頂いている客様の年間購買額は圧倒的に大きい。店舗にレバレッジをかけたECと店舗のシームレス化が必須であるということです。お客様の変化としては、“モノ売りを起点”とした瞬間最大風速を高めるための顧客戦略の限界を課題として捉え、顧客に愛され、顧客として定着化して頂けるようにするための顧客戦略の再定義をします。MD戦略顧客では、的のど真ん中にいる代表的な顧客像を想定します。『当該商品』や『商品群』を買っていただきたい顧客=ペルソナAさん⇒外部環境の変化から、今後拡大しそうな市場にいる代表的なお客さま像 ⇒ターゲットのイメージを明確化することで、品揃えを明確にするために設定します。
販売戦略顧客では、矢が当たり得る範囲の顧客を想定します。MD戦略顧客のペルソナAさんを的のど真ん中として狙った品揃えで、結果的に買ってくださる、商売上重要なお客さま
⇒買っていただき得るお客さまを明確化することで、販売上取りこぼさないために設定するということです。
DXにおける取組
取り組みとして二つの流れに沿って展開しています。まず、オンラインでもオフラインでも「最高の顧客体験」を提供すること、二つ目はグループの強みにデジタルを加えた「新しい顧客体験」を提供することです。
百貨店事業における取組みの一つ目は、ECサイトの統合/三越伊勢丹アプリをリニューアルしました。二つ目は、リモートショッピングアプリ(MIRS)で“店頭の全ての商品”をどこからでも(オンライン上で)お買い物できるようにしました。三つ目は、お客様サービス機能の強化(診断/採寸/提案)安心/安全/信頼をベースにお客様を深く知り、ニーズ、課題にお答えするようにしました。一方新しい顧客体験を提供する取組みとして、一つ目は、定期宅配サービスISETAN DOORを提供しました。二つ目は、2019年2月にデジタルコスメ事業 “meeco(ミーコ)“をローンチしました。三つ目は、2019年9月デジタルギフト事業 MOO:D MARK (ムードマーク)をローンチしました。四つ目は、百貨店のふるさと納税バイヤーによる返礼品調達/リアル店舗接客を開始しました。五つ目は、2019年夏パーソナルスタイリング事業をローンチしました。六つ目は、20年10月リユース事業から始め将来的にはサスティナブル事業の体現を目指しローンチしました。七つ目は、21年3月仮想世界における新たなビジネスをスタートしました。
体制では超高速PDCAを実行するため、デジタル開発会社、アイムデジタルラボ、システム子会社IMS、情報システム、事業運営チーム、営業現場の連携を図っています。また、スピーディーに顧客体験(UX)向上の改善/改修を実現するために、超高速PDCA実現体制を構築してます。
まとめ
DXとはCX(コーポレートトランスフォーメーションそのもの)であり、三越伊勢丹グループが築き上げた価値(ブランド、安心安全、信頼)をベースにお客様、市場の普遍的なニーズ(憧れ、ワクワク、楽しみ・・・)をとらえそれらを商品/サービスとしてお客様に提供するための仕組みを作りそれらを支えるビジネスモデル/仕事のやり方を作るため「変化し続ける」ものとしています。
フィルゲート株式会社 代表取締役菊原政信