3月2日、第45回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。
ゲスト講師に田辺 牧子 氏(株式会社SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略事業部 ソリューション戦略部 SHIBUYA109 lab. コンサルタント)をお招きし、Z世代の消費実態や価値観を紐解いた。
■ホスト:菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)
■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)
■ディスカッション参加フェロー:
川添 隆 氏 株式会社ビジョナリーホールディングス 取締役 CDO 兼 CIO
唐笠 亮 氏 株式会社パルコデジタルマーケティング 部長
松本 阿礼 氏 株式会社ジェイアール東日本企画 駅消費研究センター 研究員
五月女 由紀子 氏 杉野服飾大学 教授
■ゲスト講師
田辺 牧子 氏
株式会社SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略事業部 ソリューション戦略部 SHIBUYA109 lab. コンサルタント
総合マーケティング会社にて、主に化粧品や日用品メーカー等へ、商品企画からプロモーションのための調査を中心としたマーケティングサポートを実施。
その後、化粧品会社にて商品企画・新規事業を担当し、株式会社SHIBUYA109エンタテイメントに入社。
SHIBUYA109 lab.では毎月200人のaround 20(15歳~24 歳の男女)と接しながら、SHIBUYA109のマーケティングから外部企業のマーケティング支援までを行う。
SHIBUYA109 lab.ではZ世代を15-24歳と定義し、来館者をはじめとして毎月約200人のターゲットと接点を持ち、独自のネットワークを築いて「生の声」を集めている。今回のレポートでは、そうして得られたデータを元に彼らの価値観や購買行動に見られる特徴を捉える田辺氏の講演を中心に、イベントの様子をご紹介したい。
消費価値観を示す4つのキーワード
物心ついたときからスマホやSNSに親しんでいるデジタルネイティブであるZ世代の消費に対する価値観とは、どのように特徴づけられるものか。
田辺氏はこれまでの経験や考察を踏まえ、その消費スタイルを4つのキーワードに落とし込んで分析している。それは、「①体験消費」「②間違えたくない消費」「③メリハリ消費」「④応援消費」だ。
「①体験消費」の起点はSNSにあり、「SNSにその体験を投稿して共感が得られること」が購買行動の動機として重要になる。
消費は体験そのものから逆算して、「思い描く体験をするために何が必要か」に基づいて意思決定をする。例えば空間全体の演出を重視し、背景となる場所や用いるアイテム、その場に合わせたファッションなど、隅々までこだわるための消費が中心である。そうして得られた体験をSNSに投稿すると誰かの共感を呼び、さらに同様の消費を生み出すというサイクルができる。
上記のようなサイクルは、「②間違えたくない消費」にもつながる。SNSで気になる体験を発見すると、同様の体験を得るための事前準備として情報収集をしっかりと行う。その際にTikTok・Instagram・YouTube・Twitterなど、多様なSNSを「トレンド把握」「カフェ・スポット探し」「HOW TO」「ヲタ活」などの目的に合わせて使い分ける合理性も、Z世代の特徴である。コロナ禍で外出一回あたりの価値が上昇していることも、そうした傾向に拍車をかけているようだ。
パーソナライズもポイントの一つである。診断などを活用して、買い物の精度を上げることに妥協しない。
ディスカッションでもこのトピックへの言及があったため、一部を抜粋する。
唐笠氏(フェロー):SNSで発信している人のことを信頼する基準はどのようなものか?
田辺氏:様々なインフルエンサーがいるが、消費行動に繋がる点として重要なのは商品説明が分かりやすいことと、良いところも悪いところもきちんと紹介していることが説得力に繋がる。インフルエンサー自身の視点で語ることで、Z世代にも親近感がわき伝わりやすい。インフルエンサーマーケティングについても、普段その人が紹介している分野などとのマッチングに違和感がなければ、フォロワーにも受け入れられやすい。
川添氏(フェロー):Z世代は広告をどう捉えているか。拒否反応は強い?
田辺氏:他の世代に比べると、広告そのものに拒否反応が強いわけではない。ただ、自分に必要な情報かどうかという中身が重要。
残りのキーワード「③メリハリ消費」「④応援消費」の実態は、消費に際してZ世代がかける熱量と深く関係している。田辺氏が示すデータによると、Z世代の4人中3人がアイドルやファッション、漫画など何かしらの「ヲタ」を自認し、自分が価値を感じたものに集中的に出費する傾向も強いという。
田辺氏はそうした「ヲタ活」を支える熱量の構成要素を、次のように分析する。世界観やストーリーへの共感、「推し」の親近感、応援することで「推し」が成長するというモチベーション、充実感(心のゆとり)、自分らしさを出すことができるアレンジの余白、「推し」と共創する楽しさ。それらが様々な消費を生み、拡散に貢献しているとのこと。つまり消費への熱量の構成要素を取り入れることが、Z世代へのアプローチにつながるということでもある。
Z世代へのアプローチに際して意識するべきこと
田辺氏は、Z世代に対するアプローチのポイントを3つ挙げた。
- Z世代と同じ目線を持つ:できるだけ自社でターゲットとの接点を持ち、ネットワークを築いて、習慣的にコミュニケーションを取る
- 自社の商材以外のカテゴリについても把握:自社の商品やサービスを利用している時以外にどのようにお金と時間を使っているか、普段の生活実態について理解を深めることが重要
- Z世代の世界に没入・参加する:一方的な接点ではなく、企業側からZ世代の世界に参加し、企業の世界観を一緒に表現していく
このポイントはそのまま施策の順番としても適用できそうだと筆者は想像した。最初に顧客にコンタクトを取り、双方向的なコミュニケーションの中で生活の全体像を掴み、そこでヒントを得て世界観の共創につなげるというストーリーである。
田辺氏は、ターゲットと継続的にコミュニケーションをとることで、顧客層に対する理解が深まるだけでなく、企業やブランドとして信頼関係も構築し、将来にわたってLTVを向上することにもなると指摘した。
オムニチャネルと二次流通への意識
デジタルネイティブであるZ世代の多くは、実店舗とECを、用途とそれぞれのメリットを照らし合わせて利用している。購買行動におけるオムニチャネル意識については、本イベントにご出席いただいた杉野服飾大学の五月女氏によるショートプレゼンで、調査・分析の発表があった。
Z世代の多くは、そもそも購買行動に至る前の情報収集から、リアルとデジタルをシームレスに行き来している。そうして情報収集に時間をかけ、比較検討を慎重に行った上で購買行動に至る。もはやリアルとデジタルの境目が認識されることすらなく、デジタルも含めてすべてがリアルという認識に変わっているとも言えるだろう。
さらに、二次流通についてもディスカッションで話題となった。
唐笠氏(フェロー):事業者側の立場から、リユースなどに関する意識も気になっている。フリマアプリの普及は、購買行動にどのような影響があるか?
田辺氏:多少高くても「(自分に合わなければ)フリマアプリで売ればよい」と考えて買うということが多く起こっている。そもそもモノを捨てること自体にも罪悪感があるように見受けられる。
本イベントにはZ世代である杉野服飾大学の学生の方にも参加いただいたが、フリマアプリの代表であるメルカリについては
「購買時に実物が見られないケースでは、特に(売ることを)意識している」
「売るよりも買うことが多い。興味がない分野への出費は抑えたいので、よく利用している」
という意見が聞かれた。個人の関心のある分野や商品の性質によって使い方は分かれるが、いずれの場合でも日常的に使うサービスとしての存在感は大きいようだ。
「超Z世代マーケティングサービス」のご案内
Next Retail Labは現在、青山学院ヒューマンイノベーションコンサルティング(青山学院大学経営学部経営学科玉木ゼミ)、杉野服飾大学ファッション・ビジネス・流通イノベーションコース五月女ゼミとそれぞれ提携し、Z世代の声を集め、ビジネス研究に活かす取り組みを進めている。ヒアリングなどの調査だけでなく、「未来コンセプトペディア」を活用したワークショップ、Z世代が参画する商品開発企画など、未来に向けたビジネスの共創にもつながるアプローチである。
先日は杉野服飾大学の五月女教授と学生の皆様にご協力いただき、アンケートとSNSを組み合わせたZ世代の消費傾向の分析を行った。(参考:D4DR社「現役服飾大学生39名の傾向から、Z世代の消費行動とインスタ利用のマーケティングを読み解く」)
彼らの消費・購買行動だけでなく、アカウントによってパーソナリティを使い分ける様子も如実に現れた結果となっている。詳しくは上記の記事を参照されたい。
田辺氏はディスカッションの中で、Z世代がこれから消費を担う中心になっていくことを踏まえ、今はそのLTVを高めるためにアプローチする段階にあると強調した。
将来的にライフステージによる消費傾向の変化や、同じZ世代でも前半と後半で今後大きな差が現れる可能性もある。継続的に関係構築しながら共創につなげていくことはもちろん、さらに細分化した分析も必要になることを念頭に置く必要があるだろう。次世代の小売流通を専門とするNext Retail Labとしても、Z世代を研究するだけでなく、ターゲットの視点に立ち、長期にわたって共感してもらえる仕組みやサービスを追求していかなければならない。
主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net