第36回:温故知新:「日本橋いづもや三代目の四方山話~うなぎ文化の過去と未来~」

当社が主催する次世代小売流通研究団体Next Retail Labが開催するフォーラムでは、新年の恒例として古くから商売をされている会社の方をお招きして講演して頂いています。そこで、今回は1946年創業日本橋のうなぎ屋いずもや三代目岩本公宏氏をお招きし、「日本橋いづもや三代目の四方山話~うなぎ文化の過去と未来~」をテーマにお話し頂いた後、当会のフェローとのディスカッションを行いました。その模様をお伝えします。

大きい会社に入れば、自分のある種のステータスにはなるかもしれません。しかし、入社後に実際仕事をしてみても、その満足感は続くのでしょうか。既に確立されたシステムに抗えなかったり、大人数ゆえ、個性が埋もれてしまい、自分の活躍の場が少ないこともあります。 一方で、小さな会社であれば、個性が尊重され、自らがトップとなって働く場面も多いでしょう。学校の授業でも、大人数よりも少人数の方が、一人一人の個性が目立ち、先生や周囲に意見を伝えやすくなります。これは、学校以外の組織においても当てはまります。「鶏口牛後」は、このような小さな組織の良さを表すことわざです。このようにいずもやではトップから現場までの風通しを良くして全員が一丸となって運営ができる工夫をしています。

その前に、岩本氏は好きなことをやろうと考えて、大学は夜間に通い朝は築地に行きへ昼は店で働く生活をしてきました。卒業後は明治5年創業の老舗うなぎ屋へ修行に行きましたが、そこでの修行中に覚えたことは忍耐、我慢でした。その日々を送る中、人生で最も影響をうけたことが初代の妻である祖母との別れでした。戦後すぐに初代と結婚、うなぎ屋を営むことになりましたが先代が亡くなり、その後は女手ひとつで小さな子供を育て夢も希望もなく途方に暮れて日々を送る中、助けてくれたのは従業員やお客様でした。

 

チャンスを逃さず工夫を凝らす

 

2年間の修行後、いづもや本店に戻りその2年後に日本橋三越に出店することになりますが、その間どのようにうなぎが販売されているかを学ぶため全国50か所以上の百貨店を視察しました。そこで感じたのは焼いてしばらく経ったうなぎが販売されていることが多く、本物を知っているお客様には本物を出さないと納得してくださらないことに気が付きました。では、その本物を出すにはどうしたらよいかという課題に打ち当りましたが、そこで考えたのは店同様に注文を受けてから焼くスタイルです。これを行うためにはお客様に30分以上待って頂く必要があり、これにはお客様、三越の社員の方、2代目の父親から批判を受けました。しかしながら、本物を提供するには焼きたてと5分間に焼いたものとどちらが良いか、当然焼きたての方に軍配が上がります。この課題を乗り越えるために店頭販売員には本物を味わって頂くためお客様への徹底した説明と、お客様には先に注文をして頂く出来上がるまでの30分は他お買い物をして頂くなどを伝えてきました。その甲斐があって、お客様には満足して頂けるうなぎを届けることができるようになりました。その他にも本店では様々なウナギ料理を開発して当店名物のうなぎづくしコースが完成しました。

 

稚魚の価格はうなぎ上り

 

太古の昔から食されていたうなぎも未だにその生態系は解明されていない部分があります。現在食べられているうなぎのほとんどは養殖ですが、その稚魚であるシラスが近年とれなくなっています。シラスウナギは1匹0.2gで1キロあたり約5,000匹となりますが、一番高く取引された時には、1キロあたり400万円の値を付けたこともあります。

ちなみに、今年1月の金1キロの価格が約850万円、プラチナは1キロ約460万円でしたので、そのことからシラスウナギは別名白いダイヤとも言われています。シラス漁は、養鰻業への稚魚供給を目的にした特別な漁で、「特別採捕」と呼ばれています。本来、禁止されている21センチ以下のウナギを採ることを、県知事が特例的に許可しています。12月初旬から3月中旬ごろまでの漁期で資源管理のため9日間の休漁が3回設けられています。しかしながら稚魚の国内漁獲量は年々減り続けそのため価格も高騰しているのが現状です。

 

今後望まれるうなぎの完全養殖

 

前述した通りうなぎの稚魚の漁獲量が減り価格が高騰していることから、安定的に供給できるよう現在では卵から成魚になるまでの完全養殖が注目されています。うなぎの卵を人工ふ化させた仔魚(しぎょ)に与える餌について、これまでは資源保護が求められたサメの卵が使われていましたが、最近では新たな餌が開発されて稚魚を量産できる可能性が高まってきました。この完全養殖が普及することにより安定した価格と量が保てることになります。ちなみに我々が食べている鰻のほとんどはオスのうなぎです。

 

人材育成は自社のためだけでなく業界のために

 

今後もこの商売を営んでいく上でも、組合や関係者の方に対してわからないことは何でも聞くことにしています。聞くのが恥ずかしいというプライドが全ての妨げになります。目上の方々、特に2代目の父親に対しては聞くことも多いです。親族で経営する会社にとって特に当てはまることとは思いますが上司であり親族であると、とかくものが言いにくい場面があります。親との意思の疎通を図るため、部下に対してあえて自分からは言わず、自分のしたいことを上の人にしてもらうような心配りも必要です。更に若手育成については、魅力ある職場環境、とにかく仕事をさせる、利欲率を低くする、教えられる職人、板前を心がけています。昔は串打ち3年、割き8年、焼きは一生と言われてきましたが、これは人によって仕事を覚えるスピードに早い遅いがあります。いづもやでは、まずは仕事や下積み仕事もしごともどんどんさせて、仕事を覚えたら外(他の店舗)に出して経験を積ませます。外に出してしまったら自社にとって何も得がないのではないかと言われますが、その人達が外で腕を認められて、お客様から評価されるようになり、それがきっかけでうなぎを食べる機会を増やして頂ければ、業界自体の底上げになると考えて約3年で一人前の職人、板前になるよう指導しています。未来は現在からの積み重ねで今、一所懸命頑張れば未来は開けると自分達うなぎ屋は、この技術を後世に残すために頑張っています。

フィルゲート株式会社 代表取締役 菊原政信