第31回:WEB3.0メタバースとジオラマに観る仮想空間

先月号では、Web3.0時代のメタバースについてNext Retail Labフォーラムで論議された内容を含め仮想空間の今後の可能性と課題などをお伝えしました。今回は視点を変えて、日本でも以前から親しまれてきた風景模型などで仮想の空間を作りあげるジオラマを取り上げ、改めて仮想空間の捉え方とその可能性について考えてみます。

 

仮想空間創出は異次元へのトリップ欲求

最近、メタバースが仮想空間と言われていますが正式な定義はされていないのが実情です。そこで広義な解釈としては、現実には存在しない想像の空間とした場合古くから馴染みの

あるジオラマも仮想の空間であると考えられます。ジオラマは既に存在する都市を模して風景や建物をミニチュアの模型として構築したものです。それは、過去の都市を再現したものから未来の都市として作られたものなど様々ですが、一度は誰もが目にした馴染みのあるもと思います。凝ったものでは建造物だけではなく、鉄道や車が走り街かどには人々が集い賑わいを表現までしたものなどがあります。最近ではコロナの影響により自宅にいる時間が多くなり、趣味としてジオラマを自作する人も増えたと聞きます。メタバースを構築するには、それなりの専門知識と費用を要しますがジオラマは模型という個人でも手軽に作れる空間作りモデルです。

この両者に共通して言えるのは、未知の空間であり現実世界ではなしえなかった俯瞰で観ることやその空間に入り込むことができる点があり、それはまさしく異次元へトリップするしたいと言う欲求を満たすものでもありましょう。

 

3Dスキャン技術によるジオラマが高精度に進歩

古くから親しまれてきたジオラマも、近年の技術の進歩により以前より格段とその構造の精密性や表現力が増してきました。ここでは、2020年6月に東京都江東区の有明にオープンした「スモールワールズTOKYO」の例を見ていきます。この施設は有明物流センター内の総面積約8,000㎡という室内空間につくられた大型のジオラマ施設です。ここでは1/80のスケールでいくつがのゾーンが形成されています。「宇宙センター」エリアでは1970年代アメリカのアポロ計画を題材にしたロケット打ち上げシーンと、それを観にきている大勢の観客の姿と未来の宇宙空港など時空を超えた景観を表現しています。ユニークなのは360度3Dスキャナーで自分のフィギュア(1/80の人形)を作りエリア住民権として好きなエリアに1年置くことができたり、記念撮影ができるコーナーもあります。その他1900年代産業革命時代のアジアとヨーロッパをイメージした「世界の街」エリア、当時の建物や鉄道の他、空想の動物ドラゴンと人が共生しており、そこで生活する人々一体ずつの営みが生き生きと表現されています。「関西国際空港エリア」ではターミナルの他、荷物受け取り場のレーンや圧巻は、空港滑走路上の旅客機が本物さながらランディングポジションに着いてから離陸までを見ることができます。

その他のエリアもありますが、特筆すべきはアニメの世界と言う本来架空の世界感、例えば「新世紀エヴァンゲリオン」の第3新東京市なども忠実に構築されており、街のところどこに登場人物を配置してストーリーの場面を再現しています。これなどは仮想の空間をリアルに表したものと言って良いでしょう。

世界の街エリア 筆者撮影

メタバースとジオラマ、そして現実世界との連携

ジオラマと言う古くから馴染みのある空間模型もこのように進化しており、単に見るものから積極的にその空間に参加することができる可能性が出て来ました。場合によっては鉄道模型や自動車の模型には小型カメラを載せてあたかも実際に自分が乗っている気分を味わえるなど、メタバース以外でも没入感を体験することが可能でしょう。将来は自分のフィギュアが街の中を移動してジオラマ内のカフェや店舗に立ち寄り、そこから先はメタバース空間に接続されるなど従来は個々に存在していた空間がシームレスに繋がり、そこで訪れているいる人同志が会話を楽しんだり、買い物をすることができるようになるかも知れません。そして、これらの操作は全て手元のスマホで出来るなど利便性を提供することで画面を共有することやリアルな施設ではその先の体験を提供することにも繋がります。リアルとネットの世界が融合すると同時に、現在では、リアルな街の風景をスマホのアプリによってジオラム風な写真に加工できるソフトも提供されることもありアナログなジオラマが見直されています。最近では音楽をスマホで聴くことが日常になりましたが、レコードをかける手間を再現するようにレコード針を落とす動作が味わえるガジェットも登場してきました。これは単に懐古的になるのではなく、新な楽しみ方の一つとして開発されました。このように、一見過去のものと思われていたものが、新たな発想や創意工夫により今までと異なる世界感をつくり上げていくことも可能でしょう。

 

将来に向けて自社のビジネスと仮想空間を連携させる

コロナの影響により対面での商談や打合せが難しくなった一方、ZOOM、GoogleMeetなどのリモート通話を使うことが日常になりました。DXが推進されているのも、このように物理的な移動を共わなくても業務を止めないための日夜の努力と知見の積み重ねにあります。今後もこの流れは更に進むこととなり、その現れとしてメタバースが注目されました。これは前回の号でも紹介しましたが、たとえ仮想空間であってもこの空間においてアバターを使いコミュニケーションを取り現実社会とも連携を図っていくことになります。メタバース以前においても今日では、コミュニケーションを取るのに一日の中で、パソコンやスマホを活用してSNSを利用している時間の割合が増しています。よってリアルな場とインターネットの場というはっきりした境界線は薄くなり事業者としては顧客にとって、より便利で共感を生み出せる取り組みが必要となってきます。その為にも自社の環境やリソースを最大限に活用できる戦略を立案して将来実行できる体制を今から作り上げていくことが肝心です。

 

フィルゲート株式会社 代表取締役 菊原政信