近年、メタバースと言われる仮想空間が話題となっています。仮想空間と言いながらも技術の進歩により、それは現実の世界と見間違うほどの再現性を作り出すものも現れてきています。そこで今回は7月20日に開催された第49回Next Retail Labフォーラム、テーマ「メタバースとリテールの未来」の内容を中心にお届けします。
メタバース発祥の背景
Facebook社が社名をmetaに変更し、今後メタバースに多額の開発費を投じることが報道され話題になり、今年はメタバース元年と言われるほどになりました。
メタバースとは「Meta」と「Universe」を掛け合わせた造語であり現実を超えた仮想空間のことを言います。仮想空間について20年前にも「セカンドライフ」が話題となりました。今後は、この空間で多くの人々がコミュニケーションを取るようになり、様々な商品やサービスが提供されると言われ多くの企業がこの空間に店舗や広告、イベントを開催する等されましたがやがてブームが去りやがて人々の記憶から忘れ去られることとなりました。それから時が経ちここに来て改めて話題になってきたのは、当時はパソコンでの閲覧が主流だったのに対して現在では、その時と比較して各段とアップした通信環境や高精細な画像が360度投影されるヘッドセットやスマートフォンなどのデバイスの活用により仮想空間への没入感が各段とアップしました。
日本におけるメタバースの特殊性
海外では、ゲーム業界に限らず、ファッション業界、教育業界などさまざまな業界に広がり、メタバース空間を活用した数多くのサービスが発表されています。しかしながら日本では、メタバースを活用したサービスや事例はまだ少なく、日本ではメタバースは流行らないのではないかという声もあります。本当に日本でメタバースは流行らないのか?今回のフィーラムのディスカッションでは、日本国内で、実際にメタバースの活用に取り組んでいる方々から日本独自のメタバースの問題点とビジネスチャンスについてディスカッションしました。メタバース普及における日本の課題は、一人一台必要とするVRゴーグルやパソコンの普及率の低さです。日本のスマートフォンの普及率は高いですが、Metaが考えているようなパソコンとVRゴーグルで体験するメタバースはスマートフォンで体験することは難しく、PCでの活用よりむしろ、日本ではスマートフォンによるメタバースの普及が予測され、メタバースの入口となる端末がメタバース先進国と違うため、先進国の事例をそのまま模倣しても日本で成功することはできないことが考えられるとの指摘があります。一方で日本独自の利点があり、それはおもてなしの接客が優れていることです。メタバースが日本で普及した際、日本の接客サービスが海外よりも優れているため、海外のお客様が日本のサービスを受けたいという需要が高まることが予想されます。海外から日本に期待されているのは漫画やアニメなどのコンテンツが代表的なものですが、しかしながら、漫画やアニメといった知的財産は消費されて、終わってしまいます。むしろ、メタバースが盛り上がったときにどこの国よりも、楽しい、居心地がいい、おもてなしといったサービスが日本の強みであり、メタバース活用においても大事になると考えられます。百貨店のメタバースを手掛けられている担当者の方からは、現実世界ではこの日本人のおもてなし力、対応力、接客力は世界トップクラスであり、実際に先輩の接客している姿を見て尊敬しているとの声もありました。つまり日本ではメタバースの入り口となる端末が課題となっているが、メタバースが普及したとき日本の小売業は海外のお客さんを取り込む戦略を視野に入れることでビジネスチャンスがあることがわかりました。
メタバース活用の成功をつかさどる要素
現実の店舗を仮想空間で再現するだけで、成功するわけではありません。メタバースだからこそ生まれる欲求や特性を理解し、メタバースを活用することが、成功する鍵となります。
- 訴求する欲求は社会的欲求以上
メタバース空間で訴求する欲求は、マズローの欲求5段階説でいうと、社会的欲求以上になるとされています。なぜなら、メタバース空間はコミュニティの形成が最も重要な要素となるためです。つまり、ワールドカップやハロウィンなどが開催されると渋谷で同じような趣味嗜好の人たちが集まります。コミュニティに参加している証、連帯感を表現しようとすると、 1番わかりやすいのは、視覚的に表現することです。ファッションはコミュニティの一員であることを簡単に示すことができる一要素となります。また、承認欲求を満たすために、生活者は服を購入することもありますが、これはメタバース空間でも同様です。例えば、フォートナイトというオンラインゲームは無料で遊ぶことができます。課金の要素があるのはゲームの進行にまったく関係のないアバターにスキン(キャラクターの見た目を変えるコスチューム)です。リアルではファッションに興味がない人が友達に自慢したいという欲求からゲーム上ではアバターのスキンに課金するといった話があります。人とのコミュニケーションが生まれると、やっぱり自分らしさを伝えたいと思ったり、TPOが存在していたりします。このようにアバターのファッションはただ着飾るのではなく、生活者の社会的欲求以上の欲求が求められることも特徴です。
- ターゲット層は若者だけじゃない
メタバースでは年配の方の需要もあると言います。なぜならば孫とコミュニケーションが目的でメタバースを利用したいと思うからです。また、もし孫にアバターの服をおねだりされたら、買ってあげたいと思う祖父母もいると言います。自分のアバターを着飾りたいと思う生活者だけをターゲットにするのではなく、購入するまでのプロセスに関わる生活者もターゲットになり得ます。
- 必須機能はコミュニケーションが取れること
メタバースでの小売業の展開において、現状のECサイトと大きく変化する点は、お客様と一対一で密にコミュニケーションを取ることが可能な点です。現状のECサイトでは対応できない、リアルと同じような体験を提供することができるようになります。おそらくメタバースは一人で使わない方がいいサービスの象徴で、昔、おじいちゃんにメタバースで買ってもらったなと思い出すといったことも想像しています。実際にバーチャルだからECに近いと思っていたが、リアルの店舗に近い。ただリアルコミュニケーションと違いは、アバターを着ていることで匿名性があるため、本音を聞き出しやすいと言います。リアル店舗ともECサイトとも異なるお客様とのコミュニケーションが可能になり、生活者のインサイトが理解しやすいメタバース空間では、お客様とのコミュニケーションの場を構築することが、小売業がメタバースを活用して成功するための大きなポイントとなります。
フィルゲート株式会社 代表取締役 菊原政信