SDGsは、包摂的で世界の全ての人を取り残さないというテーマを持っています。前回は、一見ビジネスと直接関係のないことのように思えるデザイン思考についてお伝えしましたが、これから先の不透明な時代を切り開く考え方の一つであり、既にビジネスに取り入れている企業も出てきています。新型コロナの感染によって、当たり前のことが当たり前でなくなり、当たり前でなかったことが、ニューノーマルな時代では当たり前になりつつあります。そこで今回は、SDGsの目標の関連性を表した5Pモデルとマズローの5段階欲求説、更にその先にある未来の企業や個人の欲求についての関係性について考えて行きます。
未来は不可逆なことの連続
新コロナも第6波が訪れて、また社会経済や私達の生活に影響を与えようとしています。当初は、新型コロナの活動がおさまれば従来通りの社会活動にもどると思われていましたが、度重なる感染の拡大によりこの間リモートワークをはじめ、従来の方法ではない働き方などが生まれて、DXへの取り組みにより既にそのことが一般的になりつつあります。今まで体験したことが無かったことでも、それを利活用してみて十分利便性に富むものであれば積極的に手に取り入れられてきています。このように新たなメリットを甘受してしまうと、もはや完全に過去のやり方に戻すことが最善であるとは言えなくなってきています。つまり、これからは不可逆なことが起こりうることを前提とした、新たな社会環境や自社の発展にとって、どのような考えを持ち行動に移していけるかが持続可能性への道筋になります。
5段階欲求の自己実現欲求が本当に最終ステージか?
アメリカの心理学者アブラハム・ハロルド・マズローは、1943年に「人間の同期に関する理論」の中で、5段階欲求説を唱えました。俗に「自己実現理論」や「マズローの法則」と言われているのを皆さんご存じかと思います。人間の欲求はピラミッド型に下から「生理的欲求」、「安全欲求」、「社会的欲求」、「承認欲求」、「自己実現欲求」の5段階となり、下の欲求を満たさないと上の欲求に進めないと言われています。
ピラミッドの最底辺である「生理的欲求」は、生きていく上で必要となる本能的な欲求です。この段階が満たされると次のステップは「安全欲求」です。これは、こころや体ともに健康にいたい、生活をする上でも経済的に安心できる暮らしをしたいなどという欲求です。その次のステップとしては、「社会的欲求」です。これは、社会や家族あるいは会社に受け入れられたいという欲求です。人はある集団に対する帰属意識があり、その集団に受け入れられていることで安心感を得ることができます。それが満たされない場合は、疎外感を感じたりします。更に次のステップは、「承認欲求」です。これは、社会や会社、家族から認められたいという欲求です。今までのステップは外的環境に起因するものに対して、この段階からは自己が中心となってきます。人々から賞賛されたい、昇進したいなどもこのステージとしてあげられるでしょう。そしてピラミッドの頂点としてのステージが「自己実現欲求」です。これは自分の人生観を基本とした、ありたい姿や将来像を満たすしたいという欲求です。このステージは下の4つのステージを上りつめて存在する欲求と言われています。
この通り、5段階欲求説は最終的に自己の欲求を満たすべくステップアップしていくことを示しています。しかしながら、マズローがこの説を唱えた1943年当時は、現在の社会環境と異なり貧困な状況や世界が分断しており、また社会階層の差も色濃くありました。故に自己実現を最高の欲求として捉えていたことと思います。あれから80年近く経った現在においては、まだ不十分ではありますが当時と比較して各段と欲求を満たす状況が増えました。そして発展した文明と共にSDGsでは今後、社会、企業、個人が自己の欲求に加えて、他社の欲求をも満たすことが望まれる、言わば「自己超越欲求」があると考えます。
SDGsの5Pモデルと欲求モデルの相関性
ズローの5段階欲求 |
SDGsの5Pモデル |
SDGsの5Pモデルのベースにあるのは、「Planet(地球)」です。我々人類は、全ての営みをこの地球上で行っており、これを持続するには環境を守り育てる必要があります。それは、国境を越えて全ての国が基礎的要因として目指すものであり、マズローの5段階欲求では「生理的欲求」に相当することです。更に「People(人間)」では、貧困をなくし、人として尊厳の尊重や平等、衛生的で健全な人との繋がりが重要と捉えられており、欲求段階では社会的欲求や承認欲求がここに関連づけられてきます。そして「Prosperity(繁栄)」、つまり私達人間は文明、文化、技術、知識などあらゆる英知をつくして社会、国、会社、個人の繁栄にむすびつけた社会、経済、生活をつくっていきます。そして、それらを支えているのが、SDGsを実現する仕組みとしての「Peace(平和)」とSDGsを実現する資金と協力関係を築くための「Partnership(協働)」があります。
まとめ
以上の通り、SDGsを他の考えと合わせてとらえてみると、今までとは違う取り組みやアイデアが生まれてくることと思います。そして、旧来の考え方にとらわれずにイノベーションを起こすきっかけとして考察してみることをお勧めします。