第12回:SDGsの基本とビジネスへの関わり②

持続可能な視点による企業価値評価とESG投資

前回お伝えした通りSDGs以前より取り組まれてきたE(Environment)環境、S(Social)社会、G(Governance)企業統治を考慮した経営が更に求められてきています。その根底にあるは市場のルール・仕組みの変化、金融機関などの長期的な安定株主の意識変化、企業価値算出方法の変化などが挙げられます。

2006年に当時のコフィ―・アナン国連事務総長が責任投資を提唱し、「国連責任投資原則(

Principles for Responsible Investment: PRI)」が定められました。この提唱された責任投資は、ESG課題も考慮された①投資分析と意思決定のプロセスにESG課題の組み込む②活動的な所有者(株主)となり、所有方針と所有慣習にESG問題を組み入れる③投資対象の企業に対してESGについての適切な開示を求める④資産運用業界においては本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかける⑤本原則を実行する際の効果を高めるために協働する⑥本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告する、という6つの原則から成り立っています。

PRIの特徴として、署名機関として公的年金や企業年金、保険会社など資金の出し手となるアセットオーナー、資金の運用を受託する専門の組織である運用機関、企業のESG情報を評価する評価機関や、議決行使の助言会社など、機関投資家以外でESG投資に関わる組織であるサービス提供者よる国際ネットワークと協力し、この原則を実践することを目的としたこと、単に文書として原則を示しただけでなく、賛同する機関投資家に署名を求めた点、署名をするということは、ESG投資をするというコミットメント(誓約)したことです。

PRIが後に、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとることを国際条約として定めた「パリ協定」やSDGsに関連づけられ市場のルールにも変化がもたらしました。

企業価値評価においては、主流となる有形資産に加えて無形資産(非財務情報)として、品的資産、イノベーション資産、評判資産、組織の強みが考慮されるようになり、財務諸表とともにESG視点での評価が加えられるようになってきています。

また、社会問題や環境問題として例えば、ゴミや光熱費の削減や、少子高齢化・人口減少・若者流出、高齢化と介護問題、待機児童問題、防災、森林保全などがビジネスソリューションや新規事業開発の種として注目されるようになりました。それを実現する為に環境法の順守や、ISO14001活動の推進をおこなってきた環境部門担当者やCSR担当者が中心になって、SDGsやESG活動を全社的に推進し、SDGsやCSVを推進するビジョンを社長が掲げ、経営トップマネージャが社内を巻き込んでいくプロパガンダ役になることが求められています。

社会問題となっている人口減少問題では、今後、良い人材を確保するために、給与や福利厚生などの待遇改善だけでなく、仕事に誇りや、やりがいをもてるようにすることが重要になってきています。特に、「ミレニアム世代」をはじめ、環境や社会問題に関する知識や関心が高い若者を引き寄せるためにも、SDGsやESG活動が重要になるでしょう。

その為にも環境・CSR部門が、社員に対してSDGs活動に参加する機会を提供して、インターナルブランディングに力を発揮する企業事例も現れています。

 

ビジネスリスクと機会に対応するESG経営、ESG投資

ESGは、外部環境としての環境(Environment)と社会(Social)の変化に対して、企業が内部環境としてどのような企業統治(Governance)を経営組織に備えていくべきかを考える意味で、ES+Gと分けて理解するのがポイントです。前述した通り、国連責任投資原則(PRI)は6つの原則から成り立っていますが、企業価値を長期的に向上させるためには、企業の持続可能性が大切であり、これを理解するためには財務情報だけに注目するのではなく、非財務情報といえるESGの重要性が投資家の間で広がり、責任投資への大きなうねりをもたらしました。

ESGの要素の例として、環境(Environment)については、気候変動、温室効果ガス(GHG)の放出、廃棄物と汚染など、社会(Social)については、労働環境、健康と安全、雇用関係とダイバーシティ(多様性)などがあげられます。

日本のESG投資においては、2015年9月、安倍前首相が持続可能な開発目(SDGs)を採択する国連サミットの場で演説を行い、日本の機関投資家である「年金積立金管理運用独立法人(GPIF)」が、PRIに署名することにより持続可能な開発に貢献を表明し、2017年に、ESG投資を開始したことを発表しました。ちなみにGPIFは、東京証券取引所に上場するほとんどに近い企業の株式を保有する世界でも最大級の機関投資家です。

一方、ESGに関する会社の取組みを投資家が検証することは困難なため、最近ではESGの取組みを評価する格付け会社を使って、会社の取組みやその達成度の評価を行う仕組みができつつあります。しかし、評価方法はまだ発展途上であり、ESGに関する企業側の開示情報や開示の仕方に改善の余地があることも指摘されています。

 

気候変動問題とのESG投資の関係

前述した「パリ協定」は2015年12月に提唱され、各国での批准が進み、2016年11月に発効されました。これにより世界は、今後「脱炭素社会」という、これまでの延長上にはない社会を目指すことになったのです。気候変動の影響に対する金融界の危機意識は高く、G20財務大臣・中央銀行総裁会議の声明を受けて、金融安定理事会(FBS)は、2015年に「気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures: TCFD)」を立ち上げました。2017年に公表されたTCFDの最終報告書では、企業の気候変動課題に関するガバナンス、事業上におけるリスクと機会に関するシナリオ分析、管理目標と指標の自主的な情報開示を提言しました。このことは、世界の金融当局者が、気候変動を金融上のリスクだと公式に認めたことを意味していいます。

長期投資家としては、洪水、暴風雨等の気象事象によってもたらされる財物損壊等の直接的インパクト、グローバルサプライチェーンの中断や資源枯渇等の間接的インパクトによる物理的リスク、低炭素経済への移行に伴い、GHG排出量の大きい金融資産の再評価によりもたらされる移行リスク、気候変動による損失を被った当事者が他者の賠償責任を問い、回収を図ることによって生じる賠償リスクとして意識が変化しました。

フィルゲート株式会社 代表取締役 菊原政信