第1回:新型コロナに負けるな!老舗企業に映画「男はつらいよ」に見る小売りの原点

商売人としての車寅次郎

「私、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、 姓は車、名は寅次郎、

人呼んで フーテンの寅と発します。」で始まる映画「男はつらいよ」。おっちょこちょいだが、人情味のある渥美清扮する車寅次郎と毎回登場するマドンナ、妹の桜や家族とのやり取りが話題で、昨年末には50作目として「お帰り寅さん」が上映されました。

いつも、マドンナに恋心をもちながら2020

も最後にはふられてしまう、顔で笑って心で泣いている寅さんの姿が印象的です。

小売業は、人の行き交う道筋に商品を並べ売りはじめ、やがて他の地方でも売る為に行商に出かけて売り手と物流を兼ねることから始まり、それに加えて各地の情報を伝える役割も担っていたと考えられます。寅さんの職業は香具師ですが販売しているものは、易断本、瀬戸物、レコード、張り子の虎、おもちゃなど様々で、街角や祭り、縁日など人が集まるところに露店を設けて「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」と呼びかけ、その時々に販売する商品のいきさつや魅力を面白おかしく伝え、楽しませながら啖呵売・口上する姿はまさに小売りの原点ではないでしょうか。

 

小売流通の変化と現状

日本の小売の歴史において、商業の中心であった京都、大阪の他、江戸時代では参勤交代で全国の各藩から諸大名の家臣が江戸に屋敷を構えて暮らすようになり、それに伴い問屋や「現金掛値なし」で有名な、越後屋等の小売商が店舗を構えて商業流通も発展してきました。

近代小売業については、中心市街地に百貨店が登場して「百貨」の文字の通り多くの品物を取り揃え、購入できる場として消費者に支持されてきました。その後は、GMS、コンビニ、大型専門店と店舗の形態も多様になりました。流通の形態も、顧客と事業者が店舗にて単一な接点を持つシングルチャネル、店舗の他カタログ通販やテレビショッピングなど単一でありながら複数の接点で関わりを持つマルチチャネル、インターネットの登場により更に複数の接点を持つクロスチャネル、現在に至っては、スマートフォンを起点としていつでもどこでも必要なものが購入でき、在庫の確認やネットで注文して店舗での受け取り、決済も現金から電子決済へと選択の幅が増えてリアルとネットの境目が無いオムニチャネルの時代へと突入しています。

1990年初頭のバブル景気までは百貨店旺盛の時代で、顧客との信頼や密接な関係を強みとする外商の売上が過半数を超えていた時代でもありましたが、その後の景気低迷などによって次第に業績が下降していきました。それに対して在庫リスクを抑える為、買取仕入から委託仕入や販売された時に仕入勘定とする消化仕入に比重をおき、店舗には優良なテナントを入れて売上歩合で稼ぐ方向に転じました。近年では外商比率も2、3割程度になり自社企画商品の開発にも力を入れていますが、ネット通販の勢いに押されて特に若い消費者離れが顕著と言われています。

 

デジタルネイティブにとって、検索エンジンは二の次

私は日頃、商品・サービス開発やマーケティング活動をデジタルネイティブと言われる、もの心がついた時からインターネットに接している世代の大学生と企業の産学連携プロジェクトをプロデュースすることも多いですが、そこでのコミュニケーションの手段はもっぱらLINEを活用しています。

大学生に対するアンケート調査の結果を見ても、日頃活用しているSNSは、LINEは99%、Instagram84%、Twitter14%、その他2%となっています。更に使用頻度についてInstagramは、暇があれば常に使用55%、暇があれば時々使用39%、Twitterは、暇があれば常に使用13%、暇があれば時々使用31%、Facebookは、全く使わない68%、通知が来て気になったら開く21%とSNSの種類によっても開きがあります。

Instagramを例にした場合情報を収集する上でまずは、#(ハッシュタグ)のキーワードや投稿が24時間に限られるストーリーから検索して投稿されている写真、コメントを参考にしており、現在進めている産学共同研究を例にとると、学生達が他の学生に勧めたい商品を自らが選択して撮影し、普段の学生生活で思っていることや、なぜこの商品を勧めたいのかをコメントして投稿しています。それにより同じ年代の学生の共感を呼び支持されています。

画像上の商品に掲載されているショッピングタグからECサイトへの誘導やリアル場で開催されるイベント情報をInstagramに投稿するなどネットとリアルでの双方向の情報活用がなされて分析の結果、投稿に対しての保存数が多い程、購買など次のアクションに結びつきやすい傾向にあることがわかってきました。また、リアルタイムな情報を調べる時にはTwitterに投稿された情報を利用するなど使い別けて、更に詳しい情報を知りたい場合は、検索エンジンを活用するなど従来の行動から変化してきています。

しかしながらデジタルネイティブ世代にとっても、全てがオンラインで完結しているわけではなく、ショッピング、オフ会、旅行、イベントなどわくわくするリアルな場への参加も積極的に行われています。

 

顧客の心理・行動に寄り添う店舗空間の創出

ここでは、前述の状況を踏まえて今後の小売店舗の在り方を考えてみます。近頃ではモノ消費からコト消費へと言われ、商品・サービス自体の機能価値により消費されることから、商品・サービスから得られる体験や経験価値によって消費される時代になってきました。ではなぜ、特定の店舗に足を運んで頂けるのか顧客の心理・行動を中心に考えを進めて行きます。

主な店舗への来店動機は、⓵気分展開の買い物、②ウィンドウショッピング、③暇つぶし、③人との関係性・自己確認、③功利的買物が主な理由です。ある調査では、商業施設において買い物意欲の有無と滞在時間の長短による違いを縦と横軸に分けて、購入率、購入テナント数、購入金額とで比較した結果、買い物意欲が無い/滞在時間が長い集団が、買い物意欲が有り/滞在時間が長い集団に次いで購入金額が高いと報告されています。この結果から、買い物意欲の有無よりも滞在時間が購買に影響しているのではないかと考えられます。

では、なぜ滞在時間が長いと購入が多くなるのか、その真相を掴む為グループインタビューも行われており、そこから推測されたのは、気持ちを切り替えたり、自分の時間を楽しみたいので時間が必要で滞在時間が長くなる、気軽には入れて居心地が良いと習慣的に行くようになる、買う動機が無くても習慣的に通う事で購入決定がしやすかったり思い立った時に買う様子がうかがわれました。

結論として消費者が購買行動を起こす以前に、自分らしく過ごせる、居心地のよさ、気軽さが顧客の感情を変容させて、ここで購入して良かったと思う安心感や信頼感を生むことに結び付けられると考えられます。今後もこのことを視野に入れて消費者を主体に心理や行動に寄り添い購買に結びつく店舗空間の創出が重要です。

冒頭でご紹介した「男はつらいよ」の1シーンでは、いつも旅先で会ったマドンナには「困ったことがあったら柴又の虎屋を訪ねてきなよ」と言い残して去っていきます。そこには、寅さんはじめ家族が温かく迎えてくれる居心地の良さが演出されています。これからの店舗にとってもこのような工夫が大切だと考えます。

フィルゲート株式会社 菊原政信