【コラム】エービーシー・マートにみる靴業界のO2O/オムニチャネル施策

O2O/オムニチャネル以前から店頭とネットで実践

昼夜を問わず多くの人で賑わう渋谷。とりわけ人通りの多い渋谷センター街。このセンター街を進んで100メートル程の距離の中に3件の靴店がある。1店目はセンター街の老舗、現金問屋の「ダイワ靴店」、2店目名古屋に本社を置くジーフットの「ASbee」、そして3店目は今回取り上げる「ABCマート」だ。

ダイワasbee

現金問屋ダイワ(左) ASbee(右)

ABCマート渋谷店

ABCマート

 「エービーシー・マート」は、設立当初は靴と衣料を取り扱う輸入卸商社であったが、その後上野アメ横、渋谷に店舗を出店し始めて現在に至る。
国内の靴・履物小売市場は矢野経済研究所の調べによると、2012年の小売金額ベースでは1兆3,540億円、その後も103%の伸びを示している。
靴小売業での上場会社は「エービーシー・マート」、「チヨダ」、「ジーフット」の3社。国内の店舗数では1位「チヨダ」1,100店、2位「ABCマート」782店、3位「ジーフット」735店と1位の「チヨダ」と2位の「ABCマート」では318店の開きがあるが、売上高では「ABCマート」1880億円、「チヨダ」1,474億円、経常利益ではそれぞれ348億円、110億円と3倍以上の差がある。この違いは何なのだろうか。

企業名店舗数売上高(億円)経常利益(億円)
エービーシー・マート7821880348
チヨダ1,1001,474110
ジーフット73598344

 

ネット通販と言えどもリアルの店舗と変わらない「現場の力」が強み

売上高と共に業界屈指の経常利益を上げているのは、「VANS(バンズ)」、「Hawkins(ホーキンス)」、「NUOVO (ヌォーボ)」と言うオリジナルブランドを製造から小売までを行うことで高い収益を得ている。また、「Nike」などのナショナルブランドでも、既成のモデルを仕入れ販売するのみでのなく、「ABCマート」でなければ購入できない商品も開発している。メーカーから店舗への小口配送により卸を通さないことで無駄を省く。これは卸売業を経験してきたからこそかもしれない。
更にECを運営している部署では、リアルな現場を経験している者が多く、対面でモノを売ってきたたことにより得られた経験から、変化する顧客ニーズを拾い上げ、それを商品政策、店舗(ネット・リアル)に活かしていく「現場の力」が作用している。

リアル店舗とネット店舗の違いを肌で感じる

毎年リアルな店舗数の拡大にも積極だが、ネット店舗を2005年に立ち上げ、その後2007年にYahooに出店、2008年にAmazon、2010年、2012年に楽天カテゴリー別に出店している。(Amazonは2011年撤退)。
リアル店舗とネット店舗の違いは、リアルには「商圏」が存在し、またネットでは24時間365日な対応が必要になり、O2O/オムニチャネル展開する上で、顧客に対してシームレスに最適なタイミングで商品やサービスを提供するためにはこの「商圏」、「時間」また、「天候」を考慮する必要もある。
SNSの活用においては、闇雲に「いいね」数を伸ばすことや、リアル店舗への送客を考慮した場合、商圏外へのクーポン発行は効果が薄い。
ABCマートのリアル店舗においては首都圏のみならず地方にも出店しているため、地域密着型店舗での告知方法としてチラシ配布も継続的に行われており、ホームページ上からでも店舗検索と併せてSALE、バーゲンのチラシを閲覧することができる。ネットでありながらも半アナログ的な情報の有効性を肌で感じているところは強みだ。

今週の折り込みチラシ   靴ブランド総合サイト ABC MART

システム投資と共に店舗での接客にITを活用

以前からABCマートでは、店舗に顧客が訪れた際、要望する商品のサイズが無かった場合、スタッフが最寄りの店舗に取りに行くことを行っているが、2012年11月よりネットの仕組みを利用した靴の取り寄せサービス「iChock(アイチョック)」を展開している。
既に在庫情報が店舗とネットで一元管理されているため、来店した際にサイズや色がない場合は、店頭のスタッフがipadで在庫を調べ倉庫から直接顧客の自宅に送料無料で配達するO2O施策を展開している。

ichock

その際、決済は店頭のレジで行うことで、店舗の売上に計上されるのでスタップのモチベーション向上にも一役かっている。

その他、実際に店舗に訪れてシューズを購入してみたが、手入れの方法、それに必要なシューケア商品をスタッフが提案するなどクロスセルも行われている。

まとめ

エービーシー・マートの業界内での圧倒的な強さは、店舗数の拡大によるもののみではなく、ネット店舗の活用、セールなども行いながら収益の高い商品の開発、物流、店頭での接客による販売機会の創出など、地道なO2O/オムニチャネル化の施策を常に実践し、その結果業界平均を上回る収益を上げていることである。今後、どのような新たな施策を打ち出していくのかに注目したい。