第8回:売らない店舗の戦略

今回は、10月2日に開催された第33回Next Retail Labフォーラムの様子をお伝えします。 登壇者には、株式会社丸井代表取締役社長 青野真博(あおのまさひろ)氏を迎え「売らない店舗の戦略」について講演して頂いた後、当会のフェローを交えてディスカッションを行いました。

リーマンショックがビジネスモデル転換の契機に

 

丸井は1931年家具の月賦商として創業され、現在は全国30店舗の小売とフィンテックを有機的に結合するビジネスを展開しています。バブル崩壊後、貸金業法の改正やリーマンショックの厳しい時期もありましたが、回復した原因はビジネスモデルの転換です。バブル時代は、小売では若者をターゲットとしたファッションを中心に販売し、フィンテックはハウスカードとして「赤いカード」を展開していましたがリーマンショック後は、全年代に向けたライフスタイルを提供し、フィンテックにおいては汎用カードとして「エポスカード」に変えました。

1995年を堺に時代はモノ消費の時代からコト消費の時代に変わり、小売のビジネスモデルの収入構成もバブル以前は自主売場が100%でしたが、やがてリーマンショック以前では40%、現在は20%となり定期借家契約によるテナント収入が80%を占めるようになりました。通常一般的に商業施設が取り入れている売上歩合によるテナント売上仕入は、トレンドや天気により変化しますが、丸井では固定家賃による収入である為安定しています。

また、小売以外でも銀行、証券会社、市役所など「売らない店舗」にも入居して頂いています。入店客数も2020年3月時点では2億人を超えました。

この様に過去にとらわれずに変わり続け、業態を転換したことがニーズにマッチしたと捉えています。

 

なぜ売らない店舗なのか

 

近代小売も変化しており、それに合わせて消費者の買い方も変化してきました。購買チャネルも百貨店、チェーンストア、ショッピングセンター、インターネットの出現によりオンラインとの接点によるECへと変化しています。これからは、常時オンライン接続が前提となり、買うものが決まってきればオンラインの方が安くて便利です。

これまではリアル店舗が買い物をする主な場であり、ECがその一部を担う関係にありましたが、これからはオンラインがコミュニケーション、ゲーム、検索・情報収集・買い物の場なり、リアル店舗は発見や体験の場となってくると考えます。

リアルな店舗としては、スタッフとの会話や実際に試すことについてオンライン以上のアドバンテージがあります。消費者の心理や行動も変化し、自分らしくありたい、自分にとって大切なものとは何かを考える時期にきています。自分の好き嫌いを明確にした時に世の中に自分にフィットしたものが少ないことに気づき、施設側としては、画一的なものを販売する店舗から顧客に対してパーソナルな商品やサービス等多様な選択肢を提供し、個々にフィットした自分らしさを実現して頂く店舗に変わっていくでしょう。

近年のアメリカにおいては、大型のショッピングセンターが年々効率を落とす姿を見てきました。一方、こだわりをもって商品を作り消費者に直接オンラインで販売するD2C( Direct to Consumer)のリアル店舗は賑わっています。この場合の店舗は、販売を目的とするのではなく顧客とのエンゲージメントを作る為にあり、顧客に実際に体験してもらい喜んでいただける場です。

丸井では、売ることを目的にしていないテナントを入れています。そのいくつかをご紹介します。まずは、フリマを展開しているmercariです。当初イベントでの出店でしたがそこで気づきは学びがあったので、現在は丸井の社員が店舗を任せてもらっている常設展開をしています。Mercariで実際にモノを売ったり買ったりした人がどれだけいるでしょうか。この店舗では商品を撮影してアップし、梱包、発送までを体験することが出来ます。それ以外にも幾らで売ったら良いのかを検索して教え、売った時に画面の一番上に出る方法なども教えています。このように、お客様と一緒になって考え行動することによりmercariを身近に感じて貰えることを行っています。今年8月に日本初上陸オープンしたb8taでは、販売しているものはb8taの商品ではありません。この会社はRaaSのパイオニア的存在として、発見と体験をコンセプトにしています。店舗内に設置されたセンサーや商品の横に置いてあるタブレットにより来店者の行動に関するデータを出店者にマーケティングデータとして提供しています。ここでも、目的は顧客に商品を体験して頂くことでスタッフは販売せず、売り込みをしません。アスレジャーの代表ブランドlululemonは、インクルージョン&スウェットライフを提供し、週2回イベントを開催しています。本社はカナダのバンクーバで、社内には瞑想スタジオ、ヨガスタジオ、ジムがあるなど通常のアパレルメーカーとは雰囲気が違います。そこでは、商品や機能にこだわりを持ち、なによりも顧客に楽しんで頂く、体験して頂くことを第一に考えています。この会社も売場でやってはいけないことは、売りこみをすることです。なぜならば買うのは顧客の意思と言う理由からです。最後にAppleをご紹介します。ご存知の通りAppleは時価総額世界一の企業ですが、街のコミュニティの場として2018年に出店しました。斬新的な商品を次々と打ち出すと共に、リアル店舗を大切にしている企業でもあります。なぜならば、ECがどれほど発達したとしても人は必ず外に出たいと思っており、その為リアル店舗を大切にしています。ここも、売る為の場ではなく人々が集えるコミュニティの場として店中には自由に座れる椅子があり、外からも見えるようにガラス張りになっています。Apple以外の商品も4割を占めており、生活を豊かにすることを考えています。以前は、Apple storeと言う名称で展開されていましたが2016年からはAppleとなりましたがこれも売る場ではないことを意味しています。以上の通り売らない店舗の特徴としては、販売目的以上に顧客体験を第一に考え心に残る体験や売ること以外の価値を提供しています。

なぜ「売らない店舗」が成立するのか

 

2014年3月までは大方の百貨店、ショッピングセンター同様に売上歩合によるビジネスでしたが、2015年3月より固定家賃中心のビジネスモデルに転換しました。

テナント様の収入面では、顧客単価はECのみご利用いただくより、ECとリアル店舗の併用の方が高く、継続率についても同様に併用の方が高いです。一方、CPAから見た場合は参入が容易なECでは既にレッドオーシャンとなっており、近年販売促進費が高くなっている傾向があります。一方、固定家賃のリアル店舗では低く抑えられています。また、LTVの面からも、新規の顧客獲得やエンゲージメントの形成において体験を提供できるECとリアルの併用の方が価値を高く保つことができています。

その他では、多様な世界観を持っているテナント様、スペース・人材・接客・運営、カード顧客基盤を提供する丸井と共同で売らない店舗を共創しています。今後も小売、フィンテック、共創投資の三位一体の推進をいたします。

 

競争から共創の時代へ

 

青野社長の講演後、フェローの方々とのディスカッションでは今回のテーマに関して深い議論がされました。これからの商業施設の役割として、顧客に対して体験や気づきを与える場が求められてきています。商業施設間においてテナントの取り合いをする競争から、むしろ出展者のことを考えそれぞれが特色のある施設として存在し、選択の幅を広げられる環境を与えていける共創の時代を作っていくことが求められてくることでしょう。

 

入れば下記の記載もよろしくお願いします。

■ホスト

菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)

■デモレーター

藤元健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)

■ディスカッション参加フェロー

逸見光次郎 株式会社CaTラボ 代表取締役

松本阿礼  株式会社ジェイアール東日本企画 駅消費研究センター研究員

唐笠亮  株式会社パルコデジタルマーケティング 部長

樋口進  株式会社シンクエージェント 代表取締役

中見真也  神奈川大学経営学部国際経営学科 准教授

川連一豊 JECCICA 代表理事

フィルゲート株式会社 菊原政信