第48回:老舗が挑むSX(サステナビリティトランスフォーメーション)

弊社が代表を務める次世代小売流通研究団体Next Retail Labの毎年恒例、老舗企業に登壇して頂く企画。今回は、「老舗が挑むSX(サステナビリティトランスフォーメーション)」をテーマに、200年以上の歴史を持つ和菓子の老舗・株式会社榮太樓總本鋪代表取締役社長の細田将己氏を講師に迎え、フードロス対策や紙の削減、さまざまな社会貢献活動について、そしてその背景にあるトップとしての戦略や想いなどについて語って頂きました。

また、講演に続いてNext Retail Labのフェローも参加したディスカッションが行われ、賞味期限問題など食品業界ならではの課題、そして老舗企業としてのコアバリューなど、さまざまな論点で議論が交わされました。。

代々受け継いできた老舗ならではの価値を、今の時代にあわせてどう社会に伝えていくのか、サステナブルな活動を通じて、次の100年をどう生き残っていくのか、細田氏の講演をもとに、榮太樓總本鋪の戦略をレポートします。

多様な視点で商品開発、マーケットの深堀と販路拡大で売上を伸ばす

 

日本橋に本店を構える和菓子屋・榮太樓總本鋪は、創業当初から受け継いでいるきんつばや飴、季節の菓子など和菓子を中心にさまざまな商品を販売しています。「百貨店で購入する贈答品」というイメージが強いが、近年はスーパーやコンビニエンスストア向けの商品開発も行い、多彩なラインナップを取り揃えています。

2020年には日本橋にある本店を改装し、いわゆる「伝統的な和菓子屋」という雰囲気だった店舗を明るく入りやすい作りにリニューアルした。改装をしたことで、それまでは中高年が中心だった客層が若返り、来店者数も2倍以上になっているといいます。

入社以来、細田氏が取り組んでいるのが新しい商品の開発です。細田氏の祖父の時代、榮太樓總本鋪は百貨店での贈答品を中心にブランドを成長させ、そしてバブル崩壊後は、父である先代の社長が、スーパー等流通の市場に出る判断をして販路を広げてきました。

細田氏は、さらなる事業拡大として、次々と新商品を生み出し、入社当初は一つしかなかったブランド を多様な視点で拡充しています。

例えば、飴を宝石のように売るというコンセプトで作った「あめやえいたろう」は、液体の飴や軽い口どけの板飴など、デザイン性の高い菓子。美味しいだけではなく見た目にも美しく、若い女性客を中心に人気を得ているといいます。また、「からだにえいたろう」は、ヘルスケアの観点を取り入れたブランドだ。糖質を抑えた羊羹など、健康上の理由で糖質制限が必要な人でも食べられる工夫がされています。

 

ほかにも、カジュアルに親子で和菓子を楽しめるような商品を取りそろえた「にほんばしえいたろう」や、東京土産としてリブランディングした「東京ピーセン」など、その内容は多岐に渡ります。さらに、ブランドづくり以外にも、アニメのキャラクターとコラボレーションした商品や、コンビニエンスストアに向けた商品なども開発。コロナで一度は落ち込んだものの、細田氏が入社して以来、売上は過去最高を記録し、2023年度についても順調に伸びているといいます。

細田氏は「新たな商品を作ったことで、これまでうちのお菓子を置いてもらえなかった場所でも販売できるようになり、新しい世界が開けていきました。多ブランド化、新たな取り組みによって、マーケットの深掘り、そして販路の拡大につながっています」と、手ごたえを語っていました。

フードロス削減、熨斗紙の一体化、こども食堂でのお汁粉づくり…
サステナブルな活動に寄せられた声とは

 

今回のテーマでもあるサステナビリティに関しても、榮太樓總本鋪では老舗ならではのさまざまな取り組みを行っています。

食品を販売する企業として避けて通れないのが、フードロス問題だ。榮太樓總本鋪では、以前からフードロス対策に取り組んでおり、1995年から工場に売店を開設し、形の悪いものや賞味期限が近い商品を近隣の住民たちに販売していました。

契機が訪れたのが新型コロナウイルスの感染拡大だ。あらゆる業種が休業せざるを得ない状況となり、計画的に先を見越して生産していた商品が大量の在庫となってしまったといいます。

こうした状況を受け、榮太樓總本鋪はオンラインストアで正規に販売できない食品の販売を開始、さらに昨年からは「TABETE」というフードロス解消を目指すアプリを導入しました。このアプリでは、余った食品を販売したい店舗や飲食店とユーザーをマッチングし、まだ食べられる商品の廃棄を少なくすることができる仕組みになっています。

アプリを通じて、その日に余ったものを詰め合わせたセットを定価の半額ほどで販売したところ、日によって何が入っているかわからないという点が逆にユーザーにとっては楽しみともなり、生菓子の廃棄が大きく削減されたといいます。

和菓子屋ならではの紙の削減にも取り組んでいます。これまでは、紙で包装した上にさらに熨斗(のし)をかけて販売していたが。開封後、これらの紙は捨てられてしまう上、紙をかける作業にも多くの人手が必要てした。なんとかできないかという声が社員から上がり、社内で工夫を重ねた結果、包装紙と掛け紙を一体にした紙を開発。昨年から導入を始めている。熨斗を簡略化することに対するお叱りの声があると予想していたものの、実際にはクレームは一つもなく、販売する側からは熨斗が破れる心配がなくなりありがたいという声も届いているといいます。

また、200年以上にわたり日本橋で商いを続ける老舗として、地域貢献の活動も盛んです。五街道の起点として古くから栄えた日本橋では、現在、大規模な再開発プロジェクトが進行している。首都高を地下ルートにして高架をなくし、日本橋にもう一度青空を取り戻す計画や、豊かな水辺の再生を目指す計画などがたてられています。細田氏は再開発準備組合の理事長も務め、地元企業として街づくりにも多方面で参画しています。日本橋を流れる川を浄化し、自身が引退するころには、川で泳ぐ水音が聞こえるような街になったらと夢を膨らませています。

ほかにも力を入れているのが、児童養護施設やこども食堂、コロナに対応する医療機関などに食品を寄付するなどの社会貢献活動だ。昨年は細田氏自らこども食堂へ行き、お汁粉づくりに参加したといいます。

「こんなにお汁粉っておいしいんだという嬉しい感想をたくさんいただいただけではなく、これ家に持って帰れないのとか、お父さんにも食べさせてあげたいなとか、切なくなるような声もたくさんありました。今年はどれだけの子どもにあんこを届けて、おいしいお汁粉を召し上がっていただくことができるか、チャレンジしたいなと思っています」(細田氏)。

まとめ

老舗企業ならではの伝統と文化、そして受け継いできた味を守りながら、新しい時代の価値観をうまく取り入れ、成長を続ける榮太樓總本鋪。多彩な商品の数々も、サステナブルな活動も、細田氏自らが楽しみ、そして発信することで、さらなる価値を生み出しています。

榮太樓總本鋪の「次の100年」で、どのような飛躍を見せてくれるのか、今後の動向が注目されます。

 

https://www.eitaro.com/

 

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