第41回:生成AIの現在とリテールでこれから起こること

~わずか1ヶ月で起こった破壊と創生の軌跡~

前回までシリーズで生成AIについて語ってきたが、今回は6月22日、第58回目となるNext Retail Labフォーラムが開催されたのでその模様をお伝えします。今後さらなる生成AIの可能性が広がり社会に浸透していきますので、今後それに対してどのように活用していけばよいのかそのきっかけについて見ていきます。

今回は生成AIのその現在地を見据えながら、講師としてTANREN株式会社 代表取締役の佐藤勝彦氏を迎え、短期間で起こった破壊と創生を踏まえて、独自の知見を共有してもらいました。

生成AIをどう使うか

 

文章や画像を生成するAIは、登場からわずかな期間で、すでに様々な論点について議論されています。人間が時間をかけて行ってきた作業をあっという間に成し遂げる生成AIをどのように使うかという課題は、業種や職種にかかわらず向き合う必要があるといえるでしょう。

まず佐藤氏は、講演のキーワードとして「ゴールシークプロンプト」を挙げた。これは「生成AIをどう使うか」を方向づける手法の一つであり、生成AIのポテンシャルをもっと活かすための思考フレームであると言います。

 

今までのAIと生成AIの違い

 

そもそも、これまでも様々な分野で活用されてきたAIと、昨今実用化されたばかりの生成AIの違いはどこにあるのか?フェローの比企氏は、この点について以下のように説明する。「生成AIが登場するまでは、AIと人間の違いは、責任が取れるかどうかだと考えていた。しかし、人間の一人ひとりには限界のある知識や経験を大幅に拡張できる集合知として有用であるということ。また、アプリの開発などで苦戦しているときに、最初から完成形を目指すのではなく、一度作ってだめだったらやり直すということをアジャイルに繰り返す方向に発想を切り替えることもできた」生成AIの強みは、まさに何度も出力を繰り返しながら最適解に近づくことができる点にあります。その最適解へとたどり着くための道筋を分かりやすい枠組みにしたものがゴールシークプロンプトです。

 

AIとの対話攻略法「ゴールシークプロンプト」

 

佐藤氏は、生成AIは全世界の知に通じているともいえる存在ですが、ソースが膨大な分、その中から最適な答えを見つけ出すルートにも工夫が必要ですと強調します。生成AIに対して曖昧なイメージを提示するだけでは、AIの出す答えにゆらぎが生じてしまいます。さらに前述のとおり生成AIは、一度で最適解を導き出す検索ではなく、対話を通してゴールを追求するサービスと捉える必要があります。対話をより良く成立させるためにゴールシークプロンプトがあるということです。

ゴールシークプロンプトの概要:プロンプトに入力する内容と手順

①役割(+知識)を決める

②ゴールを決める

③手順と変数を提示する

④制約条件を決める

⑤対話を通じてゴールを確定させる

例えば、「営業で使える商品紹介のトークスクリプトがほしい」と考えた場合、以下のような内容と手順でプロンプトに入力することで、AIと予めアウトプットイメージを共有することができ、最適解を探ることが容易になります。

①役割(+知識)を決める

→AIは全世界の知見を集約しており、何者にもなることができる。「あなたは一流のセールスパーソンです」といった役割を定義することで、任意の視点でのアウトプットを期待することができます。また、「〇〇を熟知しています」といった文言を加え、特定の知識をアウトプットのベースとして指定することも可能です

②ゴールを決める

→「新商品のセールストークスクリプトを構築することがゴールです」といった要領で、自分の目的あるいは求めるアウトプットを提示します。

③手順と変数を提示する

→特定の商品の特徴や最新情報を様々なWebサイトから取得した上で、それらを要約・考察したものを踏まえて文章を生成する…といった手順を示すことで、より最適解に近いアウトプットが可能になります。

変数とは、この例の場合「対象とする商品」「参照してほしいページのURL」などがそれにあたります。

④制約条件を決める

→出力される文章の長さや構成などのアウトラインを決めなければ、やはりゆらぎが生じる。「AIDMAの法則の構成に従ってください」「Markdown形式で記述してください」のように、求めるアウトプットの形式などを指示することが必要です。

⑤対話を通じてゴールを確定させる

ここまでのプロンプトを受けて出力されたものに対して、フィードバックしたり指示を追加したりしながら、最適解を探っていきます。

加えて佐藤氏は講演の中で、上記のようなプロンプトによる生成AIとの対話をアプリの音声入力によって実演し、生成AIによるビジネスへの影響だけでなく、生成AIそのもののインターフェースも変わる未来をも示唆しました。

 

AIの躍進で相対的に可視化される、人間が行う仕事の価値とは

 

講演後のパネルディスカッションでは、生成AIと人間の役割や、リテールにおける活用について、様々な意見が交わされました。AIを用いてトークすることは人間の役割として残るか?より面白いトークを追求できる人と、AIに一任する人に二極化すると思う。熱意すらもAIによるトークに反映できるようになれば、本質を見極めてトークしたいという人だけが残り、そうでない人は何もしなくてよいと考えてしまう。その捉え方が変わる可能性がある。人事評価も今までのものではなく新しい評価基準が必要になるだろう。テキストに置き換えられないものの価値が増幅するということでもある。抑揚や間のとり方、所作、ノンバーバル・コミュニケーションなどから得られる体験が重要。24時間365日稼働できて、1対多数で対応できるAIを見ると、コミュニケーションの総量では勝てない。捉え方によって変わるが、AIが時間や場所に縛られずに稼働できることを前提とした新しい提供価値やサービスが生まれ、新しい接客ポイントが発生する。そこでAIよりも高いレベルの接客を目指す人にとってはチャンスでもあり、悲観することではない。

 

まとめ:共生の時代に向けて

 

LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)によるAIの飛躍的な向上を経て、シンギュラリティはこれまで以上に接近してきたと言えます。さらにAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)やASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)のビジョンも見えてきた中で、人間にはどのような姿勢・行動が求められるのか。今回紹介してもらったゴールシークプロンプトなどはその考え方を内包しており、今後この手法自体は不要になる時代が来るとしても、「AIをどう捉え、どのようなゴールに向かって人間とどう役割分担させるか」といった根本にある視点を意識すること、それを生成AIが登場したばかりの今から身につけておくことが、来るAIとの共生時代を迎えるための下地となるでしょう。