第14回:SDGsの基本とビジネスへの関わり④

CSRを基盤としたCSVの展開

前回述べたCSR(企業の社会的責任)の枠組みの中で、寄附などの短期的な事前活動や、フェアトレード(途上国の生産者への価格保証)が行われてきました。しかし、CSV経営は、慈善活動ではなく持続可能な『経済価値』を達成するために、従来の短期志向では市場対象としていなかった「ブルー・オーシャン(競争相手がいない海=未開拓市場)」といえる社会課題解決を果たして社会価値をも達成しようという狙いがあります。

CSV(Creating Shared Value)は、[M.E.ポーターら]によって提唱された概念・理論であり、「共通価値(または共有価値)の創造」と訳されています。従来のCSRの考え方を進化させて、企業と社会の両方に価値を生み出す経営戦略および競争戦略です。CSVを実現する企業や組織では、「地域社会と共有できる価値」を見出し、そのテーマ(共通価値)に沿って、これまで「本業」で培ってきた経営資源(技術やノウハウなど)の強みを発揮しながら、競争力の向上を目指します。

本業に対してCSVを進めるために、まず、CSRの基盤となるガバナンスと、サステナビリティ関連事項をISO 26000に基づいてSR体系で固めたうえで、経営上の重要事項(マテリアリティ)を抽出して、CSV戦略を加味していきます。よく「CSRからCSVへ」ともいわれますが、CSRで守りを固めたうえで、CSVを攻めの戦略として実行していきます。

 

SDGsとCSVとの融合(チャンスとリスク)

ポ-ターのCSV理論の提唱について、ケーススタディとして、ネスレ、GE、ウォルマートが取り上げられていました。しかし、CSVの価値創造の対象として、「社会価値の創造」に対する具体的な「社会課題の目標」は掲げられてませんでした。その後、世界共通認識がなされたSDGsの17目標が提唱され、それにより経済価値と社会価値のバランスをとって進めるCSVの観点から策定したビジョンを、SDGsの17目標に対応づけて中・長期の経営戦略をとっていくことが、地球環境や国際的に意義のある社会課題解決につながる意義があります。

例えば、SDGsの企業向けの導入指針として、「SDGコンパス」が発行されていることを前述しました、SDGsの「持続可能な世界共通の17目標」に対応づけることが、チャンスに繋がることと、その一方で、リスクを回避する事前対策にも繋がることを強調しておきます。CSVを実現するポイントとしてCSRとCSVそれぞれの役割と相違点をみてみましょう。NPO アカデミア・法曹界の有志からなる「考える会」が、2015年3月に、「CSRとCSVに関する原則」を公表しました。そこでは、①CSRは、あらゆる企業活動において不可欠である②CSVは、CSRの代替にはならない③CSVは、CSRを前提として進められる④そして、CSVが創りだそうとしている社会価値の検証と強化が必要であるとしています。また、CSVを実現する3つのポイントとして、①次世代の製品・サービスの創造②バリューチェーン全体の生産性の改善③地域生態系の構築としています。

 

CSVを実現する3つのレバー

それでは、CSVを実現する3つのレバーとして、製品・サービス、バリューチェーン、地域関連産業クラスターがあるとM・Eポーターらは述べています。

一つ目は、次世代の製品・サービスと市場の見直しと創造とし、地域社会と共有できる価値を見出します。社会課題の解決に役立つ次世代の製品・サービスの創造、例えば、気候変動、水や食糧の不足、経済格差の拡大、少子高齢化、人口減少などを社会問題と捉えて、自社の実業に関わる強みや経営資源を活かして、それを自社として取り組むべき社会課題として整理し、解決方策を生み出して実業へと繋げて利益を上げていく努力を継続する。事例としては、GEの「エコマジネーション」、トヨタ自動車のハイブリッドカー「プリウス」などがあります。その他、体脂肪計に代表される医療健康機器メーカーのタニタは、「健康をはかる」から、メニューの考案や食堂展開など「健康をつくる」としてCSV企業への変革が目覚まく、既存製品と市場の見直しに成功した事例といえるでしょう。二つ目は、バリューチェーン(価値連鎖)全体の見直しと生産性向上とし、需要予測、生産計画、調達・生産・物流、販売までのバリューチェーン(価値連鎖)の一連の活動の中で、どの部分の活動に対して付加価値が創出されているかを再考します。さらに、バリューチェーンに対して、川上への展開や、川下への事業領域を拡張し、全体プロセスの生産性を上げて、最適化、効率化することで、社会価値を生み出します。事例として、ユニリーバがインドでの農村部の女性を販売員にして、流通網や販売チャネルを確保すると同時に、彼女たちの自立支援を行っている「プロジェクト・シャクティ」があります。日本の事例としては、伊藤園による「茶畑産地の育成事業」などがあります。3つ目は、地域関連産業クラスター、地域生態系とし、事業を行う地域で、人材やサプライヤーを育成したり、インフラを整備したり、自然資源や市場の透明性を強化することなどを通して、地域に貢献するとともに、強固な競争基盤を築きます。関連産業集積を形成していくことには時間がかかりますが、、前述した広域なバリューチェーンに関連した、地域における産学官金連携や、地産地消などの活動を展開するとともに、それらの業務に従事する人の人材育成や教育を図っていきます。事例として、IBMが「地球を、より賢く、スマートに」をテーマに非効率や無駄の解消を目指す「スマート・プラネット」があります。

 

CSV経営に向けた4つのモデルと課題

CSV経営を目指す上での考慮すべきモデルとそれに関する課題を挙げます。①ガバナンスモデルとして、CSVは経営の意思決定の基準になりうるか、また、経済価値と社会価値をいかに定義し、評価するか。②ビジネスモデルとして、持続可能なCSVを行っていくことができるビジネスモデルを構築する。③組織モデルとして、CSVを全社で駆動する仕組みを、いかに組織内に埋め込むか。④J-CSVモデル(日本型CSVモデル)として、グローバルに通用する日本版CSVモデルをいかに確立し、いかに発信していくか。以上があげられます。

 

フィルゲート株式会社 代表取締役 菊原政信